第21話 維持費が半端なくかかる
俺たちは善次郎さんのホームから再び迷宮要塞の近くに戻ってきた。
「午後は善次郎さん抜きで探索することになるな」
善次郎さんはおそらく航空チケットを使うまではログインしないだろう。
そうなると、善次郎さん以外のプレイヤーを捕まえないといけない。
解放軍の使えないプレイヤーと一緒に探索するのは遠慮したいからな。
「それニャンだけど、ちょっと提案があるにゃ。とりあえずお昼ご飯にしないかにゃ?」
タマ子はこちらを伺うようにそんなことを言ってくる。
これは何か手伝って欲しいことがある時の彼女の反応だ。
たまことはもう長い付き合いなので、それくらいはすぐにわかる。
おそらく、何か用事があって、それで午後が潰せるのだろう。
まあ、さっきの交渉もあって、解放軍からはよく思われていないだろうし、午後は探索しないというのも一つの手か。
善次郎さんが取り分なしでいいといってくれたので、一日の目標金額はもう超えているし。
「わかった。なんだったら一緒に食べるか?」
「いいのかにゃ?」
タマ子はぱっと明るい顔をする。
俺がタマ子のことをよく知っているように、彼女も俺のことをよく知っている。
どうやら、俺が付き合う気でいることに気づいたようだ。
っていうか、予定が取り付けられただけで喜ぶとか、一体俺は何をやらされるんだ?
「実は駅前のファミレスの季節限定メニューが美味しいって話を聞いて、食べに行きたかったにゃ!」
タマ子の家は俺の家から駅を挟んで反対側にある。
そのため、待ち合わせ場所として駅はよく使うのだ。
駅で待ち合わせていうことは、何か買い物にでも付き合わされるのだろうか?
タマ子の父親の誕生日はまだ先だったはずだが。
まあ、昼ごはんも食べないといけないし、駅前のファミレスでの待ち合わせで俺としては何も問題ない。
「そうなのか?じゃあ、現地集合でいいか?」
「それでいいにゃ!先に入った方が席を取っておくってことでよろしくにゃ!」
タマ子はそう言い残して、転移していく。
おそらく自分のホームに戻ったのだろう。
ログアウトするなら自分のホームでログアウトするのが一番安心できるからな。
俺もタマ子の後を追うように自分のホームへと転移する。
***
俺はログアウトして部屋で目を覚ました。
午前中の稼ぎ分をそのまま持ってきたので、このあと足りなくなることはないだろう。
昼ごはんも駅前のファミレスだし。
(……念のために、駅までは徒歩十分ぐらいだし、歩いて行くか)
俺は財布の中身と相談して、無人タクシーではなく、歩いて駅前まで行くことにした。
高レベルになれば稼ぎも増える。
今日の午前中の稼ぎだけでも一般サラリーマンの月収くらい稼いだといえば、そのすごさがわかるだろう。
しかし、高レベルになればその分防具や武器、アイテムなどに使うお金も増えてしまう。
例えば俺がメインで使っている剣は一日使ったことによって減った耐久度を戻すのに十万円相当のアイテムを使う必要がある。
かといって、低レベルの武器はステータス効果が低すぎて使い物にならない。
差し引きすると、レベルが上がっても一日の稼ぎとしては大して変わらなくなってしまう。
この辺りが、高レベルプレイヤーがあまり増えない原因だろう。
このガリガリ削られて行く維持費はほんとなんとかならないのだろうか。
レベルが上がったんだったらもっと稼ぎやすくして欲しい。
そういう理由もあって、俺が高レベルプレイヤーだからといって、そうそうお金を使えないのだ。
うちは香織がメンテナンスしてくれているからメンテナンス費はかなり少なくなっているのだが、だからといって、無駄遣いしていいわけではない。
無駄遣いすると香織が拗ねるしな。
まあ、少し頑張れば高レベルの方がたくさん稼ぎやすいのは事実なので、お金のために高レベルを目指す人は一定数いる。
実際、俺と香織の貯金も結構な額になっている、らしい。
家計簿は香りが握っているので、俺たちの貯蓄が一体いくらあるか俺は知らないのだ。
前に教えて欲しいとお願いしたのだが、無駄遣いするからダメと言われてしまった。
ほんと、香織さんは俺のことをよくご存知で。
***
駅前に着いたが、人はあまりいない。
ほとんどの人が昼間は家にいるからだ。
仕事というか、ゲームは基本的に家ですることになるので、昼食も当然、家でとる。
何より、ドローン配達網が発達したことによって、格安で指定の時間に家に荷物を届けてくれるのだ。
わざわざ外に買い物や食事に出る人はかなり少ない。
俺も、タマ子との約束がなければ外出しなかっただろう。
出前と店で食べた時の値段の差がほとんどないのだ。
それはみんな家で食べるわ。
すぐにゲームに戻って稼ぐ必要もあるしな。
そうこう考えているうちに、俺はファミレスへとたどり着いた。
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