第19話 突撃!善次郎さんっ家

 今度はすんなりとテントを出ることができた。


 テントを出ると、タマ子と善次郎さんが待っている。


「お疲れ様にゃ」

「結構時間がかかっていたようだが、何かあったのでござるか?」


 タマ子は軽い感じで話しかけてきたが、善次郎さんは本当に心配しているようだ。

 善次郎さんのチケットの件もあったので、気にしているのかもしれない。


「大丈夫ですよ。問題なく終わりました。ここで話すのもなんなので、どこか移動しませんか?」


 ここは解放軍の拷問室の前だ。

 言ってしまえば警察署の中みたいなものである。

 別に悪いことをしていなくても、長居したい場所ではない。


「そうでござるな。それでは移動するでござる。なんだったら拙者のホームへ招待するでござるよ」


 善次郎さんがそう言ったので、俺とタマ子は驚いて善次郎さんの方をみる。


「にゃにゃ! ゼンジローさんのホームかにゃ! 言ってみたいにゃ!」

「行ってもいいんですか?」


 このゲームでは他人のホームへは招待されないと行くことができない。

 まず、ホームは転移でしか行くことができないので、招待されなければ近づくことさえできないのだ。


 その上、ホームの中にはSキャッシュがあったり、重要なアイテムがあったりと、色々と大切なものが多い。

 だから滅多なことで他の人のホームには行かない。


「二人は特別でござるよ! 是非くるでござる!」


 そこまで信頼されていると、とても嬉しいものだ。


 おそらく、『チケット』を持った状態でウロウロしたくないというのもあるのだろう。

 満面の笑顔で誘う善次郎さんに断るのも変になりそうだったので、そのまま、善次郎さんのホームに行くこととなった。


 ***


 解放軍の基地を出た後、しばらく移動したところから転移で善次郎さんのホームへと移動した。


 善次郎さんのホームは純和風といった感じのホームで、一人称が『拙者』の善次郎さんにぴったりな感じだ。

 奥さんとはあったことがないのだが、奥さんはこのホームにちゃんと納得しているのだろうか?


 俺とタマ子がきょろきょろと周りを見回している間に、善次郎さんは座布団を用意してくれる。


「さあ、どうぞ、すわるでござる」


 座布団が二つ俺たちの前に用意され、それと向かい合うように一つの座布団が置かれ、その座布団に善次郎さんがあぐらをかいて座る。


「失礼するにゃ」

「失礼します」


 俺とタマ子も、座布団に座る。

 VR世界で座布団に座るというのも何か変な感じだ。


 タマ子もそう思っているのか、何かもぞもぞしている。


 俺とタマ子がもぞもぞと動いていると、座ったままの姿勢で善次郎さんは深々と頭を下げる。


「この度は本当にありがとう!」


 突然の感謝の言葉に、俺もタマ子もおろおろとすることしかできない。


「頭を上げてください。感謝はもう十分ですから」

「そ、そうですよ! じゃなかった。そうにゃ! そんなに感謝されると、逆にこっちも恐縮しちゃうにゃ!」


 タマ子がそういうと、善次郎さんは頭を上げてくれる。


「それもそうでござるな。申し訳ないでござる。うれしさで、ちょっと舞い上がっていたようでござる」


 いつもの調子に戻った善次郎さんに俺とタマ子はほっと息を吐いた。

 いつもどおりが一番安心できていい。


「そういえば、航空チケット以外って何が出たんですか? 確か全部善次郎さんが受領してましたよね?」

「そうにゃ! それに今日の獲得物の分配もしなきゃいけないにゃ!」


 このパーティでは基本的に獲得したものは鑑定スキルを持っているタマ子が管理している。

 ガーディアンに出会うまでも結構探索したので、アイテムもかなりの量になっているはずだ。


 タマ子はインベントリから今日の獲得分のアイテムをどんどん出していく。


「おぉ! そうでござった。ほかのものはすべて二人で分けてくれて構わないでござる!」


 そういって、善次郎さんはインベントリの中からチケット以外のアイテムを取り出していく。


「そんな! 三人で分ければいいじゃないですか?」

「いや、このチケット一つだけで、ほかのものすべて合わせた以上の価値があるのだから、ほかのものはもらわなくて当然でござる」


 俺としては、チケットは善次郎さんが単独で出したようなものだから、ほかのものは最初決めていた通り三等分でいいと思っていたのだが、善次郎さんの意志は固そうだ。

 俺は助けを求めてタマ子のほうを見ると、タマ子はすすっと寄ってきて、耳元で善次郎さんに聞こえないくらいの小さな声でささやく。


「今回はもらっておいて、別のところで返せばいいにゃ」

「……それもそうか」


 譲り合いで時間をつぶすなんてどう考えても時間の無駄だし、別のところで今回得した分を返そうと俺は心に決めた。


「わかりました。今回は二人で分けます」

「うむ。そうするでござる!」


 そのあとはあっさりと終わる。

 航空チケット以外はポーションであるとか武器や防具であるとか普通のものだったので、タマ子と二人で分けた。


 せっかくならもうちょっといいものが出てほしかったな。


 そうこうしていると、誰かが返ってきたようで、入口のほうから人の歩く音が聞こえてくる。


「ただいま帰りました」

「ただいまー。おとーさん。緊急招集って何ー?」


 部屋に入ってきたのはきれいな黒髪をした女性と、俺たちと同じくらいの女の子だ。

 驚いたことに、どちらも和服で、刀を差している。

 今まで知らなかったが、善次郎さんのところは侍一家だったらしい。


 二人は俺たちがいるのを見て驚いた様子だ。

 それはそうだろう。普通、ホームに自分の家族以外の人間は入れない。


 俺たちはバツが悪そうに二人に会釈をすると、混乱しながらも二人は会釈を返してくれる。

 この状況、どうすればいいんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る