第18話 細かい気遣いのできる大人って、かっこいいよな
もしかしたら、俺は引きつった笑顔を浮かべていたかもしれない。
圭一の暗い笑みが深まった気がする。
「何ですか?」
できるだけ平静を装いつつ俺がそう言いながら席に着いた。
昨日のことは全て話したはずだ。
どうしてあれが引き戸だと気づいたかに着いては話していないが、そんな事ではないだろう。
「昨日の初回クリアボーナスの報告がまだだ。さっさと話せ」
あぁ。そういえば、秘密と答えて帰ったのだったか。
実際は大したものではなかったので、正直に話してもいいのだが、この先もズルズルと譲歩を強いられるかも知らないと思うと、言うべきかどうか悩むところだ。
よし。とりあえず、一度抵抗してから開示することにしよう。
抵抗する意思を見せておくことは重要だろう。
「そちらは報告義務はないはずですが?」
「我々は人類解放のために戦っているのだ! 我々に隠し事をするということは人類の邪魔をするということだ! お前はそれがわかっているのか!?」
あれ? 思ったよりキレられた?
このまま開示していいものか?
俺が悩んでいると、宗太郎さんが助け舟を出してくれた。
「まあ待て圭一くん。君の気持ちもわかるが、取得品を秘匿する権利はある。今回はケーマの言ってることが正しい」
「宗太郎さん! しかし、意味もなく秘匿するとは思えません! こう言うところはきちっとしておかないと、こう言ったヤツらをつけあがらせることになります!」
あーあ。こりゃダメだな。なんかスイッチ入っちゃってる。
どうやら宗太郎さんもそれを感じたのか、仕方なさそうに俺の方を見る。
「はー。ケーマ。昨日の初回クリアボーナスの内容も良かったら教えてもらえないか。この通りだ」
宗太郎さんはそう言って頭を下げる。
宗太郎さんが折れることで、俺と圭一の両方を立ててくれたのだろう。
本当にできた人だと思う。
一方の圭一は頭を下げる宗太郎さんに驚いて目をみはったあと、俺の方を睨みつけて来る。
これ逆効果になってないか?
しかし、ここで俺にできることは情報を開示することだけだ。
「あ、頭をあげてください!昨日の初回クリアボーナスは開示します」
「そうか!ありがとう!」
宗太郎さんは笑顔で俺の方を見る。
そのため、圭一が人が殺せそうな目でこちらを見ていることには気づいていない。
こりゃ、完全に敵認定されたな。
俺はため息を飲み込んで昨日のクリアボーナスの獲得ログを探した。
行動のログは全て残っており、本来、自分しか見ることはできないのだが、設定を変えて他のプレイヤーにも見れるようにすることができる。
これは偽装することができないので、報告するにはもってこいなのだ。
俺は昨日の初回クリアボーナスのログを公開に変更して、ウィンドウを宗太郎さんの前へと移動させる。
宗太郎さんと圭一はそのウィンドウを覗き込んだ。
そこには『純金の考える人』と記されている。
「昨日の初回クリアボーナスは純金の銅像でした。いつぶして妹の素材として使うつもりです」
そのログを見て、一瞬あっけにとられたような顔をした圭一は俺の方を睨みつけてくる。
いいものが出たと勘違いしていたのだろう、その眼差しには疑いと憎悪が乗っている。
「本当にそれだけなんだろうな!?」
「本当ですよ。そのログが偽装できないのは圭一さんもご存知でしょう?」
このログが偽装できないのは有名だ。
その上、日付や獲得物、獲得場所も記載されていて、いつのなんのログかは一目でわかる。
それはどこからどう見ても昨日のログだった。
まあ、本物なんだから当たり前だが。
「チッ」
圭一は舌打ちした後、食い入るようにログを見ている。
どれだけ見ても結果は変わらない。
「うむ。考える人の像か。少し興味があるな」
「えーっと、今日も持ってきているので、出しましょうか?」
宗太郎さんの興味はログから俺が獲得した像に移ったらしい。
興味津々といった雰囲気だった。
そう目をキラキラされると、出しましょうか?と言うしかない。
「うむ。頼む」
「わかりました」
俺は少し開けたところに移動し、インベントリを操作した。
そして、出てきたのが、黄金の半裸の男性像だ。
黄金の像は正直趣味が悪いと思ったのだが、宗太郎さんはそうは思わなかったらしい。
「うむ。見事な像だな。この大腿筋が素晴らしい!鋳つぶすなら買い取りたいのだがいいか?」
鼻息荒く聞いてくる宗太郎さんに俺は一歩引く。
そういえばこの人は筋肉フェチだった。
本人もかなりマッチョだが、ボディビルディングの大会とか見に行ってるらしい。
あまりの押しの強さに、さっきまで怒っていた圭一でさえ一歩引いている。
「は、はい。同量の純金と交換でいいです」
「ありがとう」
アイテム交換ウィンドウを表示させ、アイテムの交換を行う。
その結果、純金の考える人像は宗太郎さんのものとなり、同じ重さのオリハルコンのインゴットが俺のインベントリに入っている。
「あれ?」
いつぶす場合、ロスが出て重さが八割くらいに減ってしまう。
だから少ないことも覚悟していたんだが、像と同じ重さだった。
それに加えて、金ではなく、オリハルコンのインゴットだ。
オリハルコンは言わずと知れたファンタジー金属で、このゲームでは金の三倍から十倍嫌いの価値がある。
間違えたのかな? と思って宗太郎さんの方を見ると、宗太郎さんは俺に顔を寄せて、圭一に聞こえないくらい小さい声でささやく。
「それはお詫びだ。好きに使ってくれ」
「……ありがとうございます」
わざとだったらしい。
本当に、この人のこういうところは尊敬している。
俺もこういったとき細かな気遣いができる大人になりたいな。
俺は宗太郎さんに一礼してテントの外へ出た。
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