第17話 交渉は強気なくらいがちょうどいい

 部屋の中は机が一つと椅子が対面するように二脚ずつ置かれている。

 奥の方の二脚にはすでに宗太郎さんと圭一が座っていた。


 俺は手前の椅子に腰掛けた。


「まだ座っていいとはいっていない!」


 いきなり圭一が大声を出してくる。

 正直、言いたいことはいっぱいあったが、こんな奴の相手をするのは時間の無駄だと思ったので、俺は圭一を無視して宗太郎さんに話しかける。


「宗太郎さん。とりあえず、今日の探索内容全てと引き換えにっていうと、どのくらいの情報を開示すればいいですか?」

「おい! お前!」


 案の定圭一は席を立って激昂する。

 俺はちらりとそんな圭一を見た。


「ミー。この会話内容はちゃんと録音してあるな?」

「はい。問題なく」

「な!?」


 確か、防音室内での会話内容はαⅢには聞こえないようになっていたはずだ。

 しかし、防音室内での録音は防げない。


「き、きさま! 舐めるのも大概に……」

「圭一くん!」


 激昂して立ち上がった圭一に宗太郎さんは鋭い声をかける。

 圭一も宗太郎さんの鋭い声に気圧され、宗太郎さんの方を向いた。


「君は脅迫罪に該当する行為をしている。これ以上は庇えないかもしれない」

「な! 私は検察官として、正式な捜査権を!」


 宗太郎さんは息を吐きながら俯いて首をゆっくりと左右に振る。


「君が検察官なのはリアルの話だ。今の君は解放軍の一騎士に過ぎない。リアルの検察官としてであれば、ゲームの情報を聞き出すことを捜査にいれられない。そうだろ?」


 圭一は数度パクパクと口を開け閉めした後に、悔しそうに俺を睨みつける。

 半分以上自分のせいだろうに。煽ったのは俺かもしれないが。


 まあ、ここは一歩引いておくか。


 俺は立ち上がって深々と頭を下げた。


「不愉快な思いをさせてすみません。ただ、自衛のために音声は録音させていただきます」

「まあ、仕方ない。ただし、こちらも録音させてもらうよ? 圭一くんもそれでいいかい?」

「……問題ありません」


 悔しそうに圭一は席に座った。


 宗太郎さんはそれを見て安心したように軽く息を吐いた。


 そして、俺の方を見て厳しい表情になる。


「それでは、司法取引と行こうか。こっちは今日の探索の結果を聞かない。そちらは昨日のボーナスボス戦について正確な内容を答えるということでいいかい?」

「できれば、ボーナスボス戦の何を答えればいいか、先に聞いておいていいですか?僕もわからない内容だといけないので」


 宗太郎さんは少し思案した後、うなづいた。


「いいだろう。確かに、ケーマも理解していないことは答えられないな。聞きたいことは一つだ。幾度か無敵状態になっていたようだが、その方法を知りたい」

「幾度か、ですか?」


 おかしいな。あの時無敵状態になったのは、ボスのHPが黄色に変わった一度だけだったはずだが?


 俺が首をひねっていると、圭一が静かに、しかし、怒りを押し殺したような声で言った。


「しらばっくれるのか?」

「すみません。本当に一度しか見に覚えがないんです。他にはどこですか?」

「一度はボスのHPが黄色になった時、もう一つは一度目のHPが赤になった時だ」


 あぁ!

 宗太郎さんが言った事で思い出した。

 そうえば、かばうに特殊モーションが出たので、無敵状態になったのだ。


「一つ目は意図的にやった事なので、再現できますが、二つ目は意図せず出たものなので、再現できませんが、それでもいいなら話します」

「うーむ。わかった。それでいいだろう。問題ないかな? 圭一くん?」

「……まあ、妥当なところでしょう」


 俺は一安心した。

 これでとりあえずは善次郎さんのチケットは大丈夫そうだ。


「では、大泉宗太郎の権限で、今日の探索について、解放軍は情報、アイテムの提出等は求めないこととする」

「ありがとうございます」


 俺は昨日のボーナスボスでの話をした。


 ***


 俺の話を聞いて、宗太郎さんと圭一は難しい顔をしていた。

 どうやら、彼らの興味の対象になったのはスキル『かばう』の特殊モーションの方だったらしい。


 もしかしたら、大技前の無敵状態のバグ技はある程度予想がついていたのかもしれない。

 もしそうだったらかなりラッキーだ。

 ほぼ無傷でいい結果が得られたのだから。


「うーむ。スキル『かばう』にそんな機能があったとは」

「これは、大々的に検証したほうがいいかもしれませんね」


 そういえば、解放軍には騎士職が多い。


 宗太郎さんも圭一も騎士職だ。

 その分、スキル『かばう』を使うこともおいのだろう。


「いや、有用な情報であった。ありがとう。圭一くんもそれでいいかい」

「はい。、それでいいです」

「お役に立てたようで、何よりです」


 宗太郎さんはかなり満足した様子だった。

 俺も都市伝説について話しただけで今日の探索で手に入ったものが隠し通せるなら大満足だ。


 意図せず、解放軍で三代めんどくさいに入る圭一にも了承が取れたようなので、結果的には大儲けである。

 もしゴネてきたとしても、本人もいいと言った上、宗太郎さんもいるし十分に対応できるだろう。

 最初のめんどくさい感じを考えても十分にお釣りが出るな。


 満足満足。


「ではこれで」


 そう言って、俺は席を立って部屋から出ようとする。

 しかし、それを許さないものがいた。


「待て」


 俺を呼び止めたのは圭一だった。

 圭一は不敵な笑みを浮かべて俺の方を見ている。


 正直嫌な予感しかしない。

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