第16話 どこにでもいるんだよなー。こういうめんどくさいヤツ

 俺たちが仮設テントに行くと、人が疎らにいる。

 昼には少し早い時間帯だったので、あまり人がいないのだろう。


 テントの中を覗くと、宗太郎さんが部下に指示を出しているところだった。


 俺は悪いとは思いつつも、大声で宗太郎さんを呼んだ。


「宗太郎さーん」

「ん?なんだ。ケーマではないか。探索の帰りか?」


 宗太郎さんはテントから出てきて俺の背中をバンバンと叩いた。


 宗太郎さんとは実は五年以上前から面識がある。

 俺の祖父がプロの棋士で、宗太郎さんとは将棋仲間だったのだ。


 ちなみに、俺の桂馬という名前は、その祖父がつけた名前だ。

 妹は香車になりそうだったところを流石に女の子でその名前はかわいそうだということで、母の美織から一文字もらって香織になった。


 男の子で桂馬も結構大変だから、できれば止めて欲しかった。


 まあ、それはさておき、宗太郎さんがわざわざ出てきてくれたので、さっきのやつを相談するつもりだ。

 最悪、秘匿できなかったとしても、宗太郎さんにいっておけば善次郎さんがチケットを使えるようにうまく取り計らってくれるだろう。


「宗太郎さん。司法取引がしたいです。今日探索でちょっといいものが出たので、それを秘匿する代わりに昨日ボーナスボスでやったことを教えます。どうでしょうか?」


 さっきまで気のいいおじさんと言う表情だった宗太郎さんの表情がキリッと引き締まり、怖いものになった。


「やはりバブ技のようなものを使っていたか。どう計算してもおかしいことがあったのだ」

「まあ、隠し球の一つや二つ持っていますよ。今日はそれを増やすために司法取引を申し出ているんですし」


 正直、この眼光鋭い宗太郎さんの前からはすぐに逃げ出したいところだが、善次郎さんのためにも、今は逃げるわけにはいかない。

 ニッコリと笑いながら、宗太郎さんと向き合った。


 宗太郎さんは短く息を吐く。


「うむ。よかろう。悪いことを考えているわけではないようだし、大泉宗太郎の権限でその司法取引に応じよう」

「はー。ありがとうございます」


 宗太郎さんは周りの人に軽く指示を出して、テントの奥へと俺を導いた。


 俺は、ふと思ってたまこと善次郎さんの方を見て言った。


「宗太郎さん。報告と司法取引は俺一人いればいいはずなので、タマ子さんと善次郎さんは先に帰ってもらっていいですか?」

「うーむ。そうだな……」


 宗太郎さんが腕を組んで考え出した。

 善次郎さんさえログアウトさせて仕舞えば、もうチケットを奪うことはほぼ不可能になる。

 流石に、チケットを持ったままログインはしないだろう。


 俺がそんなださんを立てていると、近くにいた解放軍のプレイヤーが割り込んできた。


「そう言うわけにはいかない! もし、お前の情報が大したものでなかったら、獲得したものの開示をさせるんだから、パーティは解散せずについてこい!」


 高圧的に話しかけてきたのは、確か、けー何とかさんだ。確か、検察官か何かだったはずだ。


「それから、大泉さんはそこのプレイヤーと私的なつながりがあるみたいだから私も同席させてもらいます。判定が甘くなってはいけない」

「何もそこまでする必要はないだろ?圭一くん」


 そう。圭一だ。

 面倒な奴が絡んできた。


 こいつは事あるごとに俺たちに絡んでくる解放軍のプレイヤーで、正直、みんなに嫌われている。

 言ってることは正論なんだが、言い方というものを知らないのだろうか?


 宗太郎さんは何とか説得しようとしてくれたようだが、旗色は悪そうだ。

 難癖をつけられそうだから、できればいないほうがよかったんだがなー。


「はー。圭一くんの主張はわかった。ケーマ。彼も同席して構わないだろうか?」


 正直、ノーと言いたいところだが、それで話がこじれたら最悪だ。

 俺はできるだけ笑顔を作りながら答える。


「もちろん問題ないですよ」

「ふん。当然だな。ついてこい。そこの二人もテントの前まではきてもらう」


 そう言って、圭一はずんずんと進み出す。


 偉そうに振る舞う圭一に、宗太郎さんは小さな声で「すまんな」と謝ってくれた。


 あの温厚な善次郎さんでさえ嫌そうな顔をしていた。

 タマ子に至っては舌を出してあっかんべえをしている。


 それはバレるとさらにめんどくさくなるからやめておいたほうがいいと思う。


 案内されたのは黒塗りのテントだった。

 物々しく、入り口の左右に一人ずつ警備の人が立っている。


 これは確か防音仕様で、取り調べとかに使う奴じゃなかったか?


「入れ」


 そう言って圭一がテントの入り口を開けたので、俺は宗太郎さんの歩を見ると、宗太郎さんは仕方なさそうにうなづいた。

 抵抗しても無駄なので、俺がテントに入ると、すぐ後に宗太郎さんが入ってくる。


 そして、入り口から警備の人の一人に向かっていった。


「あぁ。君、彼らは外で待ってもらうから、椅子を二脚準備してあげてくれ」

「必要ないでしょ? ゲームなんだから」


 椅子を注文した宗太郎さんに対して、圭一はそんなことを言った。


 確かに、俺たちのレベルから言って、数時間経っていたところで、疲れることはない。

 だが、なにか?こいつは善意の協力者である善次郎さんとタマ子を立って待たせるつもりなのか?


 俺がドン引きして圭一の方を見ると、流石の宗太郎さんも苦笑いしていた。


「どちらでも変わらないなら、椅子くらい準備してもいいだろう」

「警備のものが取り調べ室から離れるのは規則違反です」


 真顔で圭一はそう言う。


 まじかこいつ。


「あ。私のインベントリの中に椅子が二脚ありますので、許可をいただければ、それを出して座ります」

「む?そうか。許可するのでそれで頼む」


 タマ子がそう提案すると、宗太郎さんは少しホッとしたような顔をする。

 タマ子がインベントリから椅子を取り出して座るのを確認してから俺を追い越して中に入っていった。


「ちっ。低脳が」


 圭一はそう言い残して、俺を押しのけるようにしてテント内へと入っていく。


(正直嫌な予感しかしないのだが、宗太郎さんが何とかしてくれることを期待して、善次郎さんのために頑張るか)


 俺はそんなことお思いながら、二人に続くようにしてテントの中へと入った。

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