第15話 東京ー大阪間を移動すれば家が立つってのは流石におかしいだろ

 善次郎さんが宝箱を開けると、宝箱の中身がその上にメッセージボックスとして表示される。


 グラフィックでは金貨や金の王冠などが入っているように見えるが、実際にてに入るのは表示されたウィンドウにあるアイテムだ。

 そのウィンドウはパーティ全員みれるが、出現する場所は宝箱の上なので、実質今見えているのは善次郎さんだけだ。


 ウインドウが出て数秒間たつが善次郎さんは動かない。

 善次郎さんはそのウインドウを見て固まってしまっていた。


 バグか?


「? ゼンジローさん? 何かあったかにゃ?」


 タマ子は動かない善次郎さんを不審に思い、恐る恐る善次郎さんの後ろからウィンドウを覗き込んだ。


 俺も気になったが、警戒しながらタマ子の様子を見守った。

 タマ子が確認したから多分大丈夫だとは思うが、新種のトラップである可能性も残されている。

 このゲームの場合、ないとは言い切れない。


「にゃにゃ! やったにゃ! ゼンジローさん!!」


 ウィンドウを覗き込んだタマ子はぴょんぴょんと跳ねながら喜んだ。


 どうやらいいものが出たらしい。

 それにトラップということもなさそうだ。


 俺は善次郎さんを挟んでタマ子と反対側に立ってウィンドウを覗き込んだ。


 ウィンドウの一番下には『スペシャルボーナス』という欄があり、その中には『ペア国内飛行機チケット(往復)』というのが入っている。


「おぉ! 飛行機チケット!」


 飛行機のチケットはめちゃくちゃ高い。

 というのも、五年前からどの乗り物も一律、移動距離と移動速度によって交通費が決まるシステムになってしまったからだ。


 そして、この速度の計算がなかなか曲者で、基準が時速五十キロ未満の無人タクシー(百メートル百円)で、時速が百キロ上がるごとに十倍になっていくのだ。

 飛行機は時速が九百キロくらいあるので、百メートル移動するだけで十億もかかってしまう。


 移動というものをよく知らないαⅢが基準を作ったため、こういう理にかなっていないことになってしまっている。

 これ以外にも、食事など、αⅢが必要としていない部分にまつわる料金設定は軒並みおかしなことになってしまっている。

 こういう部分もあるから、解放軍の気持ちも完全に理解できないわけではないのだ。


「よかったですね、善次郎さん! これで娘さんに会いに行けるじゃないですか!!」

「も、もらってもいいのか?」


 善次郎さんは驚いた顔で俺たちの方を見た。


 まあ、当然だろう。

 オークションに出せば億はくだらないものを譲ろうというのだから。


「当然にゃ! このスペシャルボーナスはゼンジローさんが出したものにゃ。それに、前から娘さんに会いたいってるのを聞いてたにゃ!」


 善次郎さんには娘さんがいて、その娘さんは五年前、首都圏の大学に通ってたらしく、五年間会えていないというのは聞いていた。

 国内のため、ASOのホームは同じ場所を使っていてバーチャルでは毎日顔を合わせているらしいが、それでも実際に会いたいという気持ちはわかる。


「……! ありがとう! 本当にありがとう!!」


 善次郎さんは深々と頭を下げた。

 俺たちとしては当然のことをしただけなので、そこまで感謝されると恐縮してしまう。


 俺は恥ずかしさを誤魔化すように少し大きな声で言った。


「じゃあ、これで探索は切り上げて帰りますか」

「そうにゃ。そろそろお昼だからお腹がすいてきたにゃ!」


 なんだかんだでもう直ぐ十二時だ。

 三時間近く探索したことになる。


 完成したマップも共有して二度手間にならないようにするため、一度帰る必要があるだろう。


「そうでござるな。拙者も妻にこのことを話しておきたいのでござる」


 普段通りに戻った善次郎さんに向かって俺たちは笑いかけた。

 善次郎さんは宝箱のウィンドウの受領ボタンに触れて宝箱から出たアイテムを全てインベントリに入れた。


「でも、どうするにゃ? 宝箱の結果を報告したらきっと解放軍は難癖つけてきて没収されるにゃ」

「ぬ。そうでござるな。今はここが攻略最前線でござるから、きっと解放軍の追求もしつこいのでござる」


 ガーディアンが出れば、そこで何かいいものが出たのは丸わかりだ。

 そして、そこでリアルで有用なアイテムが出たと分かれば解析だなんだと理由をつけて没収されることになるだろう。


 かといって、ガーディアンが出たことを黙っていればそれはそれで目をつけられて困る。


 真剣に悩む二人に俺は軽い調子で答えた。


「あぁ、俺がバグ技の情報開示をしてそれで相殺してもらいますよ。今日は宗太郎さんがきてたので、そこで報告して、交換条件として出せば受け入れてもらえるでしょう」


 宗太郎さんは解放軍の幹部で元警視総監の人だ。

 さっきテントをのぞいた時いるのを確認している。

 重要情報の開示をしたいといえばそこに案内してくれるだろう。


「な!? バグ技は開示すると使えなくなるかもしれないでござるが、いいのでござるか?」


 バグ技系は使う人が増えてバランスが崩れたとαⅢが判断すればパッチが当てられる。

 逆にいえば、数人しか知らず、バランスを崩すほど使わなければいつまでも使えるチート技なのだ。

 その分、情報の重要性は高めに設定されている。


「実はこのバグ技、昨日サオリの前で使ってしまったんです。不審に思われているみたいだったので、ちょうどいい開示理由を探してたんですよ」


 しかし、俺はそのバグ技を解放軍のサオリの前で使ってしまった。

 サオリは大丈夫だとは思うが、ボーナスボス戦は報告されているだろう。

 そこから不審に思われるのは十分考えられる。


 今朝サオリにあった時、何か言いにくそうにしていたし、おそらく追求されたんだろう。


「……かたじけない!この恩は必ず返すでござる!」

「はは。善次郎さんにはいつもお世話になっているので、いいですよ」


 俺たちはそんな話をしながら前線基地となっているテントへと向かった。

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