第14話 技名は大声で叫べ!

 三人で攻撃を加えればガーディアンのHPはみるみるうちに減っていく。


「後一発入れればHPバーが赤になるにゃ!」

「わたったでござる!」


 タマ子がそういうと、善次郎さんは俺たちがいるところまで下がってきた。


「誰が行くにゃ?」

「拙者が行くでござる」


 そういうと、善次郎さんは一歩前に出た。


「実は新技があるでござる。やっと昨日、妻からオッケーが出たので、使いたかったでござる」

「奥さんのオッケーが出たなら高得点が狙えそうですね」


 善次郎さんは俺たちの方を見てにこりと笑ったあと、ガーディアンの方を向いて刀に手をかけた。


「祇園総社の鐘の声・・・」


 善四郎さんが無敵状態に入ったので、技のモーションが始まったのだろう。


 ちなみに、セリフの方は善次郎さんのオリジナルだ。

 なぜこんな恥ずかしいセリフを彼が言っているかというと、それはこのゲームの技のダメージ計算が原因だ。


 このゲームでは技のダメージ計算は

 基礎ダメージ × キャラクターの攻撃力 × クリティカル・属性などの補正 × 芸術点 - 敵の防御力

 で計算される。


 おかしいのが混じっているのに気づいただろうか?


 そう、芸術点が入っているのだ。

 この芸術点はαⅢが算出していると言われている。そして、モーションはαⅢが決めているから、プレイヤーがいじれるのはセリフの部分だけ。


 つまり、いいアテレコをしないと、ダメージが減ってしまうのだ。

 しかもこの芸術点、〇.一倍から十倍まで結構な幅がある。

 あの解放軍ですら技名を叫んで一倍以上を取りにいくのだからその影響力は馬鹿にできない。


 ちなみに、善次郎さんのやった、入りが平家物語はポイントが取りやすいことで有名だ。


「『我流炎熱斬(焔)改二式』‼️」


 善次郎さんがガーディアンの横を通り過ぎ、刀を納刀する。

 どうやら技が終わったようだ。


 善次郎さんの無敵状態が溶け、刀の軌跡が白く光る。


「やったにゃ!高得点にゃ!五倍にゃ!」


 どうやら、善次郎さんのセリフはαⅢのお気に召したらしい。

 5倍なら十分に削りきれるだろう。


 しかし、善次郎さんの奥さんは俺たちの予想を超えてきた。


 善次郎さんは喜ぶでもなく、硬直状態でもギリギリ動く首を動かし、ガーディアンをちらりと見る。

 そして、正面を向き直りゆっくりと目を閉じた。


「また、つまらないものを切ってしまった」


 善次郎さんがそういうと、さっきまで白く輝いていた軌跡が虹色に変わった。

 これは8倍のエフェクトだ。


「うそだろ?」

「初めて見た」


 八倍エフェクトは滅多なことで出ない。

 五年以上プレイしている俺でも片手で数えられるくらいだ。


 というか、エフェクトが出た後も判定が入るなんて知らなかった。


 虹色に発行した軌跡は最後に爆発するような強い光を発して消える。

 そして、ガーディアンのHPは予想通りゼロになり、ガーディアンは光の粒になって散っていく。


 俺たちはガーディアンにわき目も触れず善次郎さんに駆け寄った。


「すごいにゃ!八倍エフェクトなんて初めて見たにゃ!」


 善次郎さんはタマ子のそのセリフを聞いて嬉しそうな顔をした。


「ちゃんと八倍になったでござるか!? やったでござる! これで妻に良い報告ができるでござる!」

「エフェクトが出た後も判定が入るって知ってたんですか?」


 俺がそう聞くと、善次郎さんは首を横に振った。


「確信はなかったでござる。ただ、エフェクトが出て硬直状態になってから、ダメージが入るまで結構時間があるでござろう? だから、もしかしたらそこでも何かできるかもしれないと思ったでござる。まあ、全部妻の案でござるが」

「へー」


 善次郎さんの奥さんは昔役者だったらしい。

 専門家から見ると、そういうこともわかるのかもしれない。


「このことは黙っといたほうがいいかにゃ?」


 タマ子がそう聞いた。


 こう言った小さなアドバンテージはこのゲームでは重要だ。

 お金に直結する分、その情報の扱いは慎重になる必要がある。


 善次郎さんは首を横に振った。


「いや、その必要はないでござる。気付いてしまえば簡単なことでござる。妻とも話して、この後、情報屋に情報は売るつもりでござる。それ故、タマ子殿も使ってくれて問題ないのでござる」

「本とかにゃ!?ありがとにゃ!」


 ぴょんぴょん飛び回りながら喜ぶタマ子を善次郎さんは優しい目で見ていた。

 確か、善次郎さんにも俺たちと同い年くらいの子供がいたはずだから、そのことタマ子を重ね合わせているのかもしれない。


「じゃあ、ここの宝箱を開けたら撤収しますか?」

「そうでござるな。八倍エフェクトも出たし、中身が楽しみでござる」


 いつの間にかガーディアンは消えていた。

 そして、さっきまでガーディアンがいた場所に一つの宝箱があった。


 宝箱の中身を決めるのはαⅢなので、八倍エフェクトが出るような戦闘ではいいものが出やすい。


 タマ子が宝箱をささっと調べた。


「罠はないみたいにゃ」


 たまにこうやって出てきた宝箱にも罠があるから、チェックは欠かせない。


「じゃあ、善次郎さんが開けますか?」

「良いのでござるか?」


 善次郎さんは確認するようにこちらを見た。


 宝箱は開けたプレイヤーの欲しいものが出やすいと言われている。

 あとで分けるにしても、自分で開けたいというプレイヤーは多い。


 だが、今回いいものが出るとすれば、善次郎さんが頑張ったからだ。

 やはり彼が開けるべきだろう。


 俺がうなづくと、タマ子も同じ意見だと示すようにサムズアップをした。


「問題ないにゃ!今回の戦闘のMVPはゼンジローさんにゃ!」

「では失礼して」


 善次郎さんはゆっくりと宝箱を開けた。

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