第10話 似た者親子
ボーナスステージから帰ってくると、門から少し離れたところに出た。
門のところには人だかりができている。
おそらく解放軍の人たちだろう。
厄介ごとに巻き込まれるのは嫌だったので俺はそっとその場を離れることにした。
「待って。初回クリアボーナスは何が出たの?」
離れていく俺をサオリが呼び止める。
そういえばそんなものもあったな。
最初に開けた者は初回ボーナスとしてアイテムがもらえる。
まあ、これはボーナスと言ってもピンキリで、有用なアイテムからホームのスペースを取るだけのゴミアイテムまで色々とでる。
そういえば、まだ確認していない。
俺は手早くインベントリ内の取得品からさっき手に入れたボーナスアイテムを確認する。
アイテムは『黄金の考える人』。
うーん。なんだこれ?
多分ゴミだけど有用なアイテムを持ってると勘違いさせた方がいいこともあるからとりあえず黙秘しよう。
「それは秘密だ。公開したほうが良さそうなものだったら公開するよ」
獲得したアイテムは黙秘する権利がある。
というか、アイテムについて誰かに話す義務はないのだが、解放軍がそう言っているのだ。
昔、すべてのアイテムを把握しようとして、無茶苦茶反発を買ったので、公にそう言い出した。
まあ、面倒が減って、こっちとしては助かっている。
サオリも当然そのことを知っているので、俺の言葉に小さくうなづいた。
「わかったわ。この後、中の探索をするけど、一緒にパーティを組まない?」
どうやら、サオリに結構信頼されていたようだ。
本題はパーティへのお誘いだったらしい。
基本的にアイテムは黙秘されることが多いので、わざわざ聞くことはない。
サオリのような常識のあるプレイヤーなら尚更だ。
俺がソロで即席パーティを組んで活動しているのは結構知られているからわざわざ誘ってくれたのかもしれない。
だがすまんな。サオリ。俺にはこの後用事があるんだ。
「すまん。もうログアウトするわ」
「どうしてよ? 初回クリアボーナスだけとってログアウトなんてずるいわよ!?」
初回クリアボーナスは結構美味しい。
実際、この像とボーナスステージも合わせて、かなりの収入になった。
だからこそ、初回クリアのプレイヤーは基本的にその後の探索もある程度付き合うものだ。
というか、そうするように解放軍が言っている。
普通のプレイヤーは稼ぎが一定に達すれば普通にその日はログアウトする。
そんな残業を強要するブラック企業みたいなことを言ってくるのは解放軍だけだ。
その解放軍が一番めんどくさいので、大抵のプレイヤーはその後の探索も付き合うことになる。
だが、今日の予定は解放軍も納得するだろう。
「ほんとごめん! 妹が晩ご飯作ってるんだ!」
解放軍はゲームよりリアルがモットーだ。
リアルの用事を出せばだいたい引き下がる。
まあ、嘘をつけとか、適当なこと言うなとか言ってくる奴もいるが。
サオリは、俺の話を信じたのか、それ以上は何も言ってこなかった。
まあ、事実なんだが。
「そっか。妹さんが。わかった、行って。みんなには私から話しておくわ」
っていうか、予想以上にテンションが下がってるな。
何かあるのか?
サオリは解放軍の集まりの方に向かって行った。
俺はこのまま行かせるのはダメだとは思ったが、何を言ったらいいかわからなかった。
だから、その背中に向かって思いついたことを言う。
「明日はちゃんと探索にくるよ」
「妹さん待ってるんでしょ?早く行ってあげて」
サオリは振り返らずにそう返事をする。
俺はそれ以上会話を続ける理由が思い浮かばなかった。
「あぁ。また明日な」
「また明日」
最後にそう言って手を挙げると、サオリも手を挙げ返してくれた。
***
もやもやした気持ちのまま一度ホームに帰り、ログアウトした。
自分の部屋からリビングに下りると、香織が夕食をテーブルに並べているところだった。
「お兄ちゃん。ご飯できたよー」
「手伝うよ」
俺は香織を手伝ってテーブルの上に料理を並並べる。
普段は手伝わない俺が手伝ったのが意外だったのか、香織は目を見開いた。
「何かあったの?」
「あぁ。じつは・・・」
サオリの話をするのも微妙かと思い、さっきあったボーナスステージの話をした。
「ほんとクソゲーだね」
「全くだ」
やっと言いたいことが言える開放感に浸りながら俺はしみじみとうなづく。
携帯端末は部屋に置いてきているし、この部屋にカメラやマイクは存在しない。
つまり、ここで話したことはαⅢにバレないということだ。
実際は近くのマイクや部屋に置いた携帯端末から音声を拾うことはできるのだが、AIは隣接する部屋や十メートル以上離れた場所の音声などを拾えないようにインプットされている。
なんでも、昔、犯罪防止にためにそういうのを組み込んだプログラマーがいたらしい。
昔のプログラマー様様だ。
「じゃあ、明日からは迷宮要塞の攻略に入るの?」
「そうなるかなー」
まあ、当然、新しいステージが解放されればそこにいく。
それはゲーマーのサガみたいなもんだ。
「あ、使った装備はちゃんと拠点のアイテムボックスに入れておいてね。あとで調整しておくから」
「いつもすまないねー」
俺の装備はいつも香織がメンテナンスしてくれている。
装備や防具は使えば耐久値が減っていくのだが、香織のような優秀な生産職はその耐久値を回復させることができる。
「はは。それは言わない約束だよ。おとっちゃん」
笑いながら香りがそう返してくれた。
俺は棚にある家族写真を見た。
そこには、両親と一緒に映る俺たちの姿があった。
両親はαⅢが世界を乗っ取った日、海外にいたため、それ以来会っていない。
αⅢは交通系の料金をなぜか無料タクシー基準にしたため、飛行機代がバカみたいに高くなってしまったのだ。
仕事などで遠くに行ってしまっていて離れ離れの家庭は結構あるらしい。
「父さんと母さん、今どうしてるかな?」
「さあ? 昨日のメールでは元気そうだったけどな」
まあ、うちの場合は少し特殊だ。
というのも、俺もかなり稼いでいて、両親もゲームは得意で結構すぐに飛行機代は稼げたらしい。
しかし、乗る飛行機を間違えて、南米からアフリカ、ヨーロッパといろんなところに行ってしまっている。
毎日のように観光写真が送られてくるんだが、いつ稼いでいるんだろうか?
昨日もピラミッドと一緒にとった写真が送られてきた。もはや旅行を楽しんでいるようにしか見えない。
「子供をほっぽり出して遊びほうけるとか、全く誰に似たんだか」
「いや、逆。親に子が似るんだよ?そして、兄さんは絶対父さんと母さんに似てるから」
子供をほっぽり出して、海外を周遊する両親。
ゲームで高レベルプレイヤーでありながら、好き勝手遊ぶ俺。
……確かに似ているかもしれない。
ぐうの音も出なかった。
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