第9話 ガチャはこうやって引きます。

『ぼぉぉぉ』


 ドスンという音とともに茄子は倒れる。


 二週目は絶対に自爆させたくなかったので、最後はアイテムで一気にHPを削りきった。

 二回もあんな攻撃食らってたまるか!


 光の粒になって茄子は散っていき、WINという文字とともに獲得経験値とSキャッシュが空中に投影される。

 俺たちは勝利を確信して肩の力を抜いた。


 サオリは本当に安心したように大きく息を吐いた。

 お前本当何持ってきてんだよ。


 振り返ったさおりの顔には満面の笑みが浮かんでいた。


「終わったみたいね」

「ボーナスステージのボスなのに、倒しにくすぎだろ……」


 一瞬忘れてしまいそうだったが、これは本来ご褒美的なボーナスステージのはずだ。

 その割には途中で何度も命の危機にさらされた。


 αⅢを信じてはいけないということだな。


 俺は形が崩れていく茄子を見つめながらふと思ったことを口にした。


「そういえば、なんで茄子なんだろうな」


 ボーナスステージに出てくるキャラは敵モンスターだけではなく、案内役やお助けキャラまで全て茄子がモチーフになっている。

 一体ナスになんのこだわりがあるんだろう。


「・・・スだからじゃないかって話よ」


 すると、俺の問いに答えるようにサオリが小さく呟いた。


 よく聞こえなかったので、サオリの方を見ると、彼女はとても嫌そうな顔をしている。

 なんで機嫌を損ねたかはわからないが、聞き逃してしまったのだから、もう一度聞くしかない。


「えーっとすまん。今なんて言った?」

「だから!ボーナスだから茄子なんじゃないかって話よ!手足が棒みたいになってるし、鳴き声もボーって言ってるから、ボーと茄子でボーナス!」


 ケーマは絶句した。


 オヤジギャグかよ!


 そう叫びそうになったが、グッとこらえた。

 そんなこと叫んだ時には一体どんなことをされるかわかったもんじゃない。


 ま、まあ、俺たちに被害があるわけではないし、別に茄子でもいいよな。


 俺は気を取り直して立ち上がった。


「よ、よし!ボーナスステージも終わったし、さっさとガチャを引いて帰ろうぜ」

「・・・それもそうね」


 サオリも立ち上がり、リザルト表示を確認した。

 ボーナスポイントから、俺が十五回、サオリが十一回ガチャがひける。


 俺がガチャを引く準備をしていると、サオリはさっとコンソールを出して「十連ガチャ」のボタンを押してしまった。


「あ!おい」

「え?何?」


 その直後、どさどさと十個のたわしが落ちてきた。


「あーあ。お祈りせずにガチャを引くからそうなるんだぞ?」

「は? 何言ってるの?」


 本当に訳がわからないという顔をしている。

 もしかして、サオリはお祈りの効果を知らないのか?


「知らないのか? ガチャを引く前にαⅢを崇め奉れば、ガチャの確率が良くなるんだぞ?」

「は?」


 こいつは何言ってるんだ? という顔でサオリが俺を見ている。

 どうやら信じていないらしい。


「まあ、見てろ。あぁ。雄大にして美しき電子の神、αⅢさま・・・」


 俺は言葉の続く限りαⅢを褒め称え始めた。


 これの始まりは実はモンスター名の苦情を送ってアカBANされたプレイヤーだ。


 そのプレイヤーは新規にアカウントを作り直した後、謝罪文とαⅢを崇め奉る文章を送ったらしい。

 送った時は目をつけられたら嫌だなくらいの気持ちだったのだが、数日後、αⅢはそのプレイヤーの前アカウントの装備やアイテムをそのプレイヤーに返却される。

 そして、そのプレイヤーは気づいた。


『αⅢってチョロくね』と。


 それ以来、そのプレイヤーはガチャなどの前にαⅢを崇め奉ってからするようになった。

 ガチャでコモン以下のものを引かなくなったというのだから、なかなか侮れない。


 俺は、一分ほどαⅢを崇める言葉を言った後、ガチャを引いた。

 すると、コモン以下のものは一つも出なかった。当然たわしも出ていない。

 その上、一つはSSRの武器だった。これは後でカオリに鑑定してもらおう。


 俺はサオリの方を振り向いた。


「な?」

「・・・」


 絶句するサオリは、自分が引いたたわしと、俺のガチャの結果を交互に見た。

 そして、決心したように拳を固く握った。


「あぁ。全知全能なる電子の神、・・・」


 ムッチャ気合が入っている。



 お祈りも二分くらいしている気がする。

 というか、よくそんなに褒め言葉が出てくるな。


 流石は解放軍。

 頭の出来が違うらしい。


 そして、たっぷり三分くらいαⅢを崇め奉った後、意を決したようにガチャを引いた。


「「……」」


 ゴクリと息を飲む音が聞こえるくらいの静寂の後、落ちてきたのは……。


 薫蒸式殺虫剤だった。


 確か、部屋に出た黒い悪魔を退治して、ホームの耐久値を上げるものだ。

 レア度はコモンより二つ上のRだったはず。


 うーん、微妙。


 なかなか手に入らないので、売れば結構な値段になったはずだが、あんなにお祈りした割にはいいものとは思えない。

 なんと声をかけていいかわからず、俺はサオリに近く。


「サオ……」

「やったー!!」


 は?


 え? そんなに喜ぶもの?

 確かになかなか手に入らないものだけど、ホームの復活にしか使えないものだよ?

 几帳面そうなサオリには必要ないものだと思うけど?


 俺が訝しげにサオリを見ていると、サオリと目があう。

 サオリはバツが悪そうに顔をそらして、薫蒸式殺虫剤をインベントリにしまった。


「えーっと、そう!友達が欲しがってたの!」

「へー。友達がね」


 なるほど、友達のためね。

 サオリらしい理由ではあると思う。

 何かはぐらかされているような感じだが、気にしても仕方ない。


「よし。じゃあ、ガチャも引ききったし、外にでるか」


 ガチャを引き終わったのと同時に現れた転移陣に向かって歩き出す。

 サオリも慌てて俺の後をついてきた。

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