第8話 隠しモーション・ラブコメ風味

 俺は地面に叩きつけられる。


 受け身を取るのには失敗したが、スタン状態はなんとか免れたらしく、すぐに立ち上がって走り出した。


 茄子はどうやら俺のことを追ってきているらしい。


 まあ、最後に攻撃を当てていたのは俺だし、ヘイト計算が俺優先になっていたのだろう。

 俺が走りながらポーションを使ってHPを回復していると、サオリが俺の隣を並走してくる。


「ごめん。大丈夫!?」

「大丈夫だ」


 サオリには強がってそう言ったが、実際はそこまで大丈夫ではない。

 結局、総HPの三分の一も持っていかれた。


 盾技能発動中なので、相手からの攻撃のダメージは半分になっている。

 防御できなければ三分の二も持っていかれるということだ。


 もし、攻撃を受けた時点で三分の一以上HPが削れていればそこでおわり。


 カオリ製のいいラウンドシールドを装備している俺でそうなのだから、サオリが受ければまずいかもしれない。

 俺は少しもったいないがポーションを使ってHPを全快させた。


 次もミスればかばう必要もあるからな。


「まあ、HP全快状態だと一発死亡はなさそうだから、この戦法で続けよう!」

「……わかったわ」


 サオリは何か言いたそうだったが、それを飲み込んでコクリとうなづいた。


「よし。じゃあ、続きをやるか!」

「えぇ!」


 俺とサオリは逃げるのをやめて茄子の方へと振り向く。

 そして、大きく深呼吸をした。


 やはり、さっき失敗した直後だから怖いらしい。


 俺が一歩前に出て、さおりの視界に入ると、サオリは一度俺の方を横目で見て、覚悟を決めたように茄子を睨む。


「『見切り』!」


 そして、スキルを発動して、再びパリィに挑戦した。


 ***


 それから二回のパリィは問題なく成功。

 HPバーが黄色から赤に変わり、それを示すように茄子は地団駄を踏む。


「離れよう!」

「そうね」


 地団駄でできるクレーターは次第に大きくなっている。

 おそらく、攻撃の範囲もクレーターに応じて大きくなっていっているのだろう。


「次は何がくると思う?」

「それを考察する意味はないと思うわ。αⅢなら、何をやってもおかしくないもの」

「確かに」


 話をしていると、地団駄を踏むような音が終わる。


 俺たちが恐る恐る茄子の方を見ていると、茄子は棒立ちになり、内側から光が溢れるようなエフェクトが入った。


「嘘!」

「冗談だろ?」


 これは自爆モーションだ。


 自爆すればモンスターのHPは0になる。

 しかし、強力なダメージを与えてくるのだ。


 ダメージは自爆したモンスターの総HPと同じだけ。

 つまり、HPの多いボスモンスターがやったりしたら確殺技になる。


 横を見ると、サオリは真っ青な顔をしている。

 なくなったら困るアイテムを持っているか、所持しているSキャッシュが結構な量なんだろう。


(はぁ。仕方ない)


 いくら盾技能発動中でHPが全快状態でもこの攻撃は受けきれないだろう。


 サオリだけでも生き残らせるため、俺はかばうスキルを発動した。

 俺はここにくる前に整理したから大してデスペナに問題はないからな。


 すると、俺の身体は意思に反してサオリをぎゅっと抱きしめた。


「え?」

「は?」


 なにしてんだ? 俺?


 そこで、俺はある都市伝説を思いでした。

 かばうスキルには特殊モーションが用意されているという話だ。


 相手が回避不可の全体攻撃をするとか、かばう対象が異性のキャラクターであるとか縛りはいろいろあるのだが、そのモーションに入ると、無敵状態になるらしい。

 ついでに、その後の会話内容でダメージが決まるとか。



 誰だよ! αⅢに少女漫画を読ませたのは!!



(まあ、死亡確定だったのが、生き残る可能性を得られただけでも儲けものと思うしかないか)


 その瞬間、世界が真っ白に染まった。


 ***


 しばらくして爆発がおさまった。


 この後が重要な会話パートだ。

 親切な選択肢は出ない。

 判定も曖昧なのでαⅢが見ていて気分で判定しているのだろう。

 問題はサオリがあの都市伝説を知っているかどうかなのだが、知らなくて合わせてもらえなければもう諦めるしかない。


 まあ、有名な都市伝説だから知ってるだろう。

 サオリ自身も無敵状態になってて違和感は感じているだろうし。


 完全に爆発が収まってから、俺はゆっくりとサオリを解放した。

 サオリは俯いている。


 おいおい、それはどういう振りなんだ? わからんぞ!?


 と、とりあえず、イケメンっぽく話しかけてみるか?

 俺はできるだけ優しい声を意識してサオリに話しかけた。

 表情は笑顔を作ったつもりだ。


「大丈夫だったか?」

「・・・」


 サオリは一言も答えず、コクリと小さくうなづいた。


 ほんとどういう振りなんだ? 全くわからん!

 とりあえず、妹にするように目の前にある頭をポンポンと優しく撫でた。


 その瞬間、無敵状態が解除された。

 HPを確認すると、全く減っていないし、バットステータスも付いていない。


 どうやら俺たちは正解を導き出せたようだ。


「やっ・・・」

『ぼぉぉぉぉぉ』


 俺が歓喜の声をあげようとすると、爆発で上がった煙の中からさっきの茄子の雄叫びが聞こえてきた。


「な!」

「さっきので終わりじゃなかったの!?」


 自爆でHPがゼロになったのは間違いない。

 自爆はそういう技だからだ。

 そういうゲームシステム的なところを変更してきたりはしない。


 となると……。


「第二形態か」


 ボーナスボスでは珍しいが変身するボスモンスターはいる。

 強くなるから倒すのが面倒なのだ。


 俺たちが剣を構えて身構えているとズシンズシンと足音を響かせながら、煙の中からひとまわり大きくなったさっきの茄子が出てきた。


 流石に俺たちも絶句した。


 αⅢのやつ、第一形態のグラフィックを使いまわしやがった!

 ふざけんな! グラフィックすらないなら第二形態なんかだすんじゃねぇ!


「あぁ。ほんとにクソゲーだな」

「心の底から同意するわ」


 俺たちは二度目の茄子退治に挑んだ。




 ちなみにこの第二形態、グラフィックだけじゃなくて挙動まで第一形態の使い回しだった。


 マジふざけんな!!

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