第7話 目には目をパリィにはパリィを!

 茄子は回転しながらゆっくりと俺たちの方に迫ってくる。


「やば!」

「走って逃げましょう!」


 俺とサオリは走り出した。


 いつのまにか茄子の入ってきた通路はなくなっており俺たちのいる場所は大きな部屋のようになっていた。

 幸い、部屋のサイズは大きいので、壁側を走ればぐるっと部屋を回りながら逃げられる。

 まあ、逃げてるだけでは何も解決しないんだが。


 俺は走りながらサオリに話しかけた。


「何か、受け流し系の技能って持ってるか?」

「ないわ。あれは侍系のキャラの技能だったはずよ」


 パリィにはパリィ! ということでこっちからもパリィを狙うのが成道だ。


 確かに、侍の『流水』や『合気』などの攻撃技がパリィの効果のついた有名な攻撃技だった。

 だが、たしかサオリの使っている細剣にもパリィのスキルはあったはずだ。

 そもそもパリィって言うのがもともとフェンシングの用語か何かだったはずだし。


 俺は必死に細剣の設定を思い出した。


「いや、細剣系のスキルの『見切り』をかけた状態での通常攻撃もパリィ判定が入るはずだ」

「そうなの!?それなら持ってるわ!でもそんな設定知らないわよ?」

「大丈夫だ。信用できる筋からの情報だし、やってるのをみたことあるから間違いない」


 ゲームでお金が稼げるようになってから攻略サイトなどは基本的なことしか書かれなくなった。

 そのかわり、情報屋という職業のプレイヤーが生まれ、主にそのプレイヤーから玉石混交の情報を買うようになった。

 まあ、現実世界でも有益な情報てのは金を積まないと手に入らないのだから、それが準現実のこのゲームでも適応されているって言うのもうなづける。


 その分、どこで得た情報かっていうのは結構重要になってくる。

 今回は情報屋じゃなくてよくパーティを組むフレンドからの情報なので、確度としてはかなり高い。


 サオリは足をとめて茄子の方を振り返る。


「嘘だったら許さないからね!」

「今回は多分大丈夫だ。俺を信じろ」


 俺はサオリのすぐ後ろで立ち止まってインベントリからラウンドシールドを取り出して装備する。

 サオリはこちらの動作を気にすることなく、茄子をじっと見据えてスキルを使う。


「『見切り』!」


 そして『見切り』スキルを発動する。


 この『見切り』は色々な武器のスキルとして存在し、少しの間世界がゆっくり動くらしい。

 らしいというのも、俺は『見切り』スキルを持っていないのだ。


 便利そうだから欲しいのだが、片手直剣の見切りスキルは未実装なのだ。早く実装して欲しい。


 茄子が十分に近づいてきたところで、サオリは突きを繰り出す。


「はぁぁぁっ!」


 そして、サオリの攻撃が茄子へと届いた。

 茄子に対してパリィが決まったらしく、茄子は大きくのけぞるようなモーションを見せる。


「やった!」


 俺はすかさず喜ぶサオリの前に出て茄子へと攻撃する。


「『上段斬り』!」


『上段斬り』は読んで字のごとくで片手剣を両手で持ち、上段から切りつける攻撃で吹き飛ばし効果が乗る。

 その際、吹き飛ばしの距離は装備を含めたキャラの総重量で計算されるので、少しでも遠くへ飛ばすために、さっき普段装備していないラウンドシールドを装備して重量を増やしたのだ。


 まあ、理由はそれだけじゃないが。


 少し離れたところで起き上がって回転を始めた茄子を見た。


 どうやら挙動に変化はないようだ。


「これでいけそうだな」

「そうね!」


 サオリは初めて決めたパリィにかなり興奮気味だ。


 確かにあれは楽しそうだ。

 侍のプレイヤーの中にはダメージがほとんどない攻撃でもわざわざパリィを狙う奴もいるらしい。

 『上段斬り』をするだけの俺にとっては何も楽しくない単純作業がなんだが。


 そう、ここからは同じことを繰り返すだけの単純作業だ。


(このまま何もなく終わればいいなー)


 俺は少し不安を持ちながらも楽しそうにパリィをするサオリの背中を見つめた。


 ***


 それから七回目のパリィで俺の不安は的中してしまった。


「え?」


 サオリが、パリィを失敗した。


 パリィは攻撃側の剣速と攻撃タイミング、相手側の剣速と攻撃タイミングなど色々なパラメータで成功失敗判定がされているらしい。

 完璧に決まれば成功率は百パーセントになるらしいのだが、サオリは今日初めてパリィをしたのだ。完璧には程遠い。

 茄子の回転攻撃はパリィしやすい攻撃だと思うが、それでも成功率は九十パーセントくらいだろう。


 そう。続けていれば絶対どこかでパリィを失敗するタイミングが来ると思っていた。


(もうちょっとで削りきれたんだけどな)


 茄子のHPはあと一度か二度の攻撃でHPゲージが黄色から赤に変わるところまで来ている。

 赤になればまた挙動が変わるだろうから、あと二回成功していたらよかったのだが、ここでハズレを引いたらしい。


「いや・・・」


 サオリは攻撃が当たる恐怖からぎゅっと目をつぶった。


 しかし、サオリが攻撃を食らうことはなかった。


 俺は盾スキル『かばう』を使ったからだ。


 硬直するサオリを突き飛ばし、回転する茄子の前に立った。

 失敗することが計算に入っているんだから失敗した時の対策もちゃんと考えてある。

 それがこの盾スキルの『かばう』だ。


 これで、仲間キャラへの攻撃を代わりに受けることができる。


 どうやらサオリは無事に茄子の進行経路からは外れたようだ。

 たまにかばっても攻撃が当たる場合があるから、正直かなりヒヤヒヤしていた。

 俺がホッとして頬を緩めると、その瞬間、目を開けたサオリと目があった気がした。


 しかし、声をかける時間はなく、次の瞬間には回転する茄子の攻撃によって俺は吹っ飛ばされて宙を舞った。


「ケーマーーーー!」


 宙を舞いながらサオリの悲痛な叫びを聞いた気がした。

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