第6話 バグとハサミは使いよう
さっきから同じ調子でダメージを与えている。
HPは多いので、なかなか相手は倒れない。
しかし、攻撃されていないので、こちらとしてはそこまで辛くない。
めんどくさくはあるが。
やっとの思いで茄子のHPが半分に近づいてきた。
「もうすぐ半分よ」
「りょーかい」
俺はそう言って大技を放った。
それによって、茄子のHPは半分を切り、色が緑から黄色へと変わる。
このゲームでは大体にボスモンスターがHPバーが黄色になると挙動が変わる。
そして、挙動が変わることを示すようにHPが半分を切った瞬間に大技が飛んでくるのだ。
この茄子も例外では無いようで、攻撃モーションに入った。
サオリは少し驚いているようだが、こんな危ない役目を女の子には任せられない。
当然、茄子のターゲットは最後に攻撃した俺だ。
その俺はというと、大技を放って硬直状態だから避けることもままならない。
だけど…。
(今!)
茄子の攻撃が当たる瞬間、俺はスキルの発動する。
「ケーマ!」
茄子は棘を俺の方に向かって打ってきた。
サオリの悲鳴のような声が聞こえるが、茄子の攻撃は俺には当たってなかった。
俺が使ったスキルは『太陽斬り』という名前の大技だ。
この手の大技は技は専用モーションが用意されている。
そして、その間は無敵状態で、相手のダメージを受けることはない。
そんなわけもあって、俺はいまダメージを受けていないのだ。
しかし、この手の大技は使うと、色々なデメリットがある。
太陽斬りも使えば『自分のHPが全損する』というデメリットがある。
なんでこのタイミングでそんな技を使ったかというと、実はこの技、俺のMPでは発動することができない。
しかし、硬直状態で使おうとすると、硬直が溶けてスキル発動判定が入るまでの間、無敵状態だけ受けることができるのだ。
まあ、言ってしまえば、バグだ。
(まあ、代償はあるんだけどな)
茄子の攻撃が終わり、硬直が溶けて俺は吹き飛んだ。
そして、俺のHPは半分になっている。
太陽斬りの発動失敗のデメリットだ。
でも、一発でHPが全損するおそれのあるボスの大攻撃を受けるよりは全然マシだ。
「いてて」
「大丈夫!?何してるのよ!?」
当たり前のようにサオリが俺のことを心配して話しかけてくる。
まあ、下手すればHPが全損するようなボスの攻撃を食らったんだ。
心配するのも無理はない。
しかし、俺としてはSキャッシュも小遣い程度にしか持っておらず、次のレベルが解放されていない以上、経験値も溜め直せば問題ない。
デスペナルティは全然怖くないのだ。その状況でバグが使えるかチェックできる今回は丁度良いタイミングだった。
バグ技は何のインフォメーションもなく唐突に使えなくなるから、たまに使っておかないといけないんだよな。
俺は心配そうにしているサオリににっこりと笑いかけた。
「女の子を危ない目に合わせるわけにはいかないだろう?」
そして、そんな打算を全部黙ったままカッコつけようとしただけって言うポーズを取ればごまかせる。
まさに完璧のタイミングだ。
「な!?何馬鹿なこと言ってんのよ!もう!」
サオリは真っ赤な顔をしてプイッとそっぽを向いた。
ほらごまかせた。
俺は立ち上がって茄子に向かって剣を構えなおす。
「それより、そろそろ来そうだぞ」
俺たちがこんな悠長に話をしていたのには理由がある。
挙動が変わる前にはいつも特別なムービーが入る。
その間はモンスターは隙だらけなのだが、無敵状態なので攻撃が決まらない。
そして、そのムービーがまた長い。
テンポが悪くなるからやめたほうがいいと思うのだが誰も言わない、以下略。
そうこうしているうちにムービーが終わったようだ。
『ぼぼぼぼぼ』
茄子はゆっくりと、次第にスピードを上げながら回り出した。
「まじかよ」
「面倒になったわね」
コマのようにくるくる回りながらゆっくりと近づいてくる。
斬撃系のエフェクトが散っていることを考えると、おそらく触れると切れるのだろう。
「まあ、見た目通りかやってみないとわからないから行ってみるか」
「あ! ケーマ」
俺は茄子に向か駆け出そうとすると、サオリが声をかけてきた。
「その、頑張ってね」
「? おう!」
何かよくわからなかったがサムズアップして返事をして茄子に向かって攻撃を仕掛ける。
「はっ!」
『ぼぉぉぉぉぉ』
カキンと音を立てて俺の攻撃は弾かれてしまった。
どうやら攻撃判定も入っていないらしく、炎の追加ダメージも入っていない。
……というか、パリィされたことになったらしい。
硬直状態になって動けない
「あ、やば」
迫り来る茄子にダメージを覚悟していると、ポーション瓶が飛んできた。
それを茄子が切り裂いた。
するとドーンという音とともにポーションが爆発した。
どうやら爆発系のポーションだったらしい。
その爆発で茄子が怯んでいるうちに硬直が溶ける。
俺は急いで茄子から離れてサオリの元へと戻った。
「すまん。助かった」
「無事で良かったわ」
サオリはほっと胸をなでおろしながら俺の方を見た。
俺はそれに微笑み返した後、茄子の方を見た。
さっきの爆発ポーションでちょっとはダメージが入ったようだが、まだまだHPは残っている。
一方のこっちはメイン武器での攻撃が難しい状況だ。
「厄介なことになったな」
「全くね」
苦々しく茄子をにらみながら俺たちはそう呟いた。
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