第5話 グラフィックの使い回しはやめてくれ…

 大きな茄子はゆっくりと動き出した。


 攻撃の届く距離まで来ると、茄子は大きく右腕を振りかぶる。


「来るぞ」

「わかってる!」


 茄子が腕を振り下ろす。


 俺とサオリが飛びのくと、ズンっと音が鳴る。


 振り返ると、俺たちがいた場所に大きなクレーターができていた。

 直撃を食らったら痛そうだ。


 どうやら、ボーナスボスまで攻撃力なしとはしてくれなかったらしい。


「物理タイプか?」

「この攻撃力なら攻撃特化かもしれないわね」


 茄子は攻撃をするために、俺のほうをゆっくりと振り向く。


 俺たちは逃げ回りながら茄子の動きから予想を立てはじめる。


 見た目では武器も持っていないし、魔法も使えそうにない。

 だが、このゲームで見た目は役に立たない。


 理由は簡単。このゲームのクソゲーたる所以の一つ、グラフィックの使い回しがあるからだ。


 初期は本気でやばかった。


 ゴブリンというモンスターを知っているか?

 よくゲームに出てくるあれだ。


 知名度の高いあのモンスターはこのアナザー・ソサエティー・オンラインにもちゃんと出てくる。

 棍棒を持った緑色の小人というお馴染みの見た目だ。


 そして、別のゲームを参考にしたのか、アーチャーだの、ソードマンだの、メイジだのがいる。


 ここまでくれば気づくものもいると思う。


 そう、αⅢはグラフィックを使い回しやがったのだ。

 信じられるか? ゴブリンが棍棒を振れば矢が飛んでくるんだぞ?


 それ、なんてクソゲーだよ。


 そんな理由もあり、初見の敵は見た目で判断できない。

 もしかしたらこいつが魔法使いかもしれないし、剣士かもしれない。

 剣を持ってないとか関係ないのだ。


「どうして鑑定持ちを連れてこなかったんだ!」

「仕方ないでしょ! 知り合いが居なかったんだから」


 鑑定スキルがあれば、ある程度は判断できる。

 まあ、自分のレベルと鑑定スキルのスキルレベルと相手のレベルで鑑定できる範囲が変わるから頼りにできるとまでは言えないんだが。



 再び振り下ろされた茄子の腕が新たなクレーターを作る。


 ただ逃げ回っていても仕方ない。

 俺は今持っているお気に入りの剣を一度インベントリにしまい、インベントリからゴツゴツした一本の剣を取り出す。


「とりあえず、一撃では死ななそうだから俺が一発いれてみる。サオリはフォローたのむ!」

「わかったわ! 気をつけて!」


 俺は全力で茄子に向かって駆ける。


 茄子はまた大きく振りかぶる。


 攻撃モーション、攻撃対象は俺だ。


(さっきのクレーターの出来方を考えると、物理の範囲攻撃系。かする程度に受けてダメージも計算しておきたいな)


 俺はそう思い、さっきのクレーター範囲ギリギリを考えて避ける。


「うお!」


 かすった茄子の攻撃は大したダメージはない。


 しかし、吹き飛ばし効果が載っていた。

 かすっただけで俺は十歩分くらいふっ飛ぶ。


 予想外の効果に着地に失敗した。


「大丈夫!」

「問題ない!」


 実際、HPは全然減ってない。

 ダメージは予想の範囲内だ。


(これなら直撃を食らっても一撃死はないな)


 俺は素早く態勢を立て直して茄子に向かって駆ける。

 茄子は今度も両腕を振り上る。

 もしかしたら、この行動は固定なのかもしれない。


 そのとき、何かが茄子にぶつかる。

 パリーンという音がして、茄子の動きが止まった。


 どうやらサオリがアイテムを投げてくれたらしい。

 おそらく麻痺ポーションだろう。


 五秒間の麻痺状態を相手に付加する。


(茄子が麻痺してるすきに!)


 俺は技も何も発動せず袈裟懸けに切りつける。


「く。硬い!」


 が、俺の剣は茄子の表皮に弾かれた。


 感触からして、物理耐性は高そうだ。

 茄子のHPバーを見たが、ほとんど減っていない。


 俺の今使ってる『大地のアングリー2』は地属性の追加攻撃を付加する武器だ。

 どうやら地属性にも耐性があるらしい。



 ……ほんと武器の名前変えるシステムが欲しい。

 できればダサい見た目も変えたい。



 ともあれ、俺が攻撃した勢いそのままに駆け抜けてサオリの元に戻ると、麻痺が解けたのか、茄子は動き出た。


 茄子の攻撃が誰も居ないところを殴りつけ、地面を大きく揺らした。


「……五秒たってないよな?」


 まだ、サオリがポーションを使ってから三秒くらいだと思う。


 麻痺は雷属性の状態異常だ。

 それが設定より早く溶けたということは、それに対して耐性があるのだろう。


「えぇ。雷には耐性があるみたいね。そっちは?」


 サオリは俺の剣を見た。

 見た目からしてダサい武器だったので属性付き武器だとわかったのだろう。

 俺は剣をインベントリにしまいながら言った。


「地属性だ。効きは悪かったな」


 地も雷も効きにくいとなると、属性は限られる。


「草かな」

「見た目通りなんて珍しいはわね」


 俺は別の剣を取り出した。

 その剣は炎のエフェクトをまとっている。

 カオリ作の『フレイムソード』だ。

 炎の追加ダメージがついている。


 草属性なら炎属性は弱点属性だろう。


「じゃあ、もう一回行ってくる!」

「今度はヘマしないでよ」


 俺はサオリの方を振り返るとにっと笑い、親指を立てた。


「当然だろ? さっきのはわざとだよ」


 サオリは何か言いたそうだったが、俺はそれを無視して茄子の方へと駆ける。

 茄子はさっきと同じように右腕を振り上る。

 俺はそれを気にせず駆け続ける。


「ケーマ!」


 サオリの声が聞こえるが気にしない。


(今のスピードなら!)


 ズンッと、うしろから茄子が腕が打ち付ける音が聞こえる。


(俺がいるのはギリギリクレーター範囲外だ!)


 俺は茄子の懐に飛び込んだ勢いそのままに攻撃する。

 そして、そのまま駆け抜ける。


『ぼぉぉぉぉぉぉぉ』


 茄子は苦悶の声を上げている。

 HPバーもかなり減った。


「よっしゃ効いてる!」

「炎属性は弱点みたいね」


 茄子はゆっくりと振り返り、俺の方を向いた。

 そこに後ろからサオリが攻撃した。


『ぼぉぉぉぉぉ!?』


 どうやらサオリも炎属性の武器に持ち替えたらしい。

 茄子は振り返ってサオリの方を向いた。


「……」


 そのがら空きの背中に俺はおもむろに攻撃を加えた。


『ぼぉぉぉぉ!』


 茄子は今度は俺のほうへと振り向く。


 俺は悪そうな笑みをしていたと思う。

 茄子はどうやら最後に攻撃をしたやつをターゲットにするらしい。


 そうと分かればやることは決まってる。

 こうやって交互に攻撃してターゲットを取り合えばいい。


「このまま焼き茄子にするぞ!」

「オッケー」


 サオリも気づいたようで、今度はサオリが攻撃を加えた。


 このまま終わるとは思えないが、当分はこれで削れるだろう。

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