第4話 なんで茄子なんだよ!

 立体文字で「conglaturations」という文字が舞い踊り、紙吹雪が舞っている。


 このイライラする演出もどうにかしてほしい。


 まず、「congratulations」だ。スペルが間違っている。


 だが、誰もアカウントを停止されたくないので忠告はしない。


「あ!やば!」


 そこで俺はあることを思い出した。

 この演出が出るときは、このあとボーナスステージに、はいるんだった。


 俺はさおりの方を振り向いた。

 サオリも死んだ目をしていたが、焦る俺の様子を見て、真剣な顔になる。


「すまん! パーティー申請してくれ!」

「あ! ちょっと待って! すぐにやる!」


 サオリも気づいたようだ。

 彼女は慌てて俺をパーティに入れてくれた。


 ボーナスステージは読んで字の如く、ボーナスがもらえるステージだ。

 このボーナスは結構有用なものが多い。


 ボーナスステージはいつもパーティ単位で挑戦することになる。

 パーティは転移時点のパーティだが、この文字が出ている間、達成者はパーティを作ることができない。


 しかし、なぜか周りの人にパーティを作ってもらってそこに入ることはできる。


 ナンデダロウナー。


 まあ、そういうわけで、サオリにパーティを作ってもらったんだが、周りにはサオリ以外の俺の知り合いはいなかった。

 最大五人までがパーティに入れるから、できれば五人で挑戦したいんだが……。


 サオリもキョロキョロしているところを見ると、知り合いがいないのだろう。


「あーもう!なんで今開けるのよ!」

「仕方ないだろ!? こんなことで開くと思わなかったんだから!! だいたい、昨日まで解放軍が規制線はって入れなくしてて今日初めてみたんだからな!?」


 解放軍は元警官など五年前までは権力者だった奴らばかりで構成されている。


 そのため、自分たちが優先されて当然と思っている節がある。

 この迷宮要塞も見つけたプレイヤーは解放軍ではないが、解放軍が来るなり規制線を引いて入れなくしてしまった。


 今日やっと規制線が解除されて入れるようになったところだ。


 そんな言い合いをしている間にもボーナスステージの開始は刻一刻と迫っていた。


「もう時間がないわよ!!」

「えーい。サオリの知り合いはいないのか!」


 サオリはさっきからじっと一方向を見ている。


「別のところにいるわ。今呼び出しているところよ!」

「もう無理だな。カウントダウンが始まった」


 どうやらサオリが見つめている先にサオリの知り合いがいるようだが、時間切れのようだ。


 「conglaturations」の文字が消えて、10から数字がどんどん減っていく。そして、カウントが0になり、転移が始まった。


 ***


 転移した先は、洞窟のような場所だった。


 どうやらここがボーナスステージらしい。


 横を見るとレイピアを装備したサオリが立っている。


「結局、サオリ一人だけか」

「なによ。文句あるっていうの!?いえ、むしろこっちが文句を言いたいわ。なんであんなタイミングで開けちゃうのよ!!」


 俺は言い返そうとしてやめた。


 俺にも非があるし、それに、あんな簡単に開いてしまうとは思っていなかった。


「……すまん。まさかあんなことであくなんて思わなくって」

「……こっちこそごめん。」


 サオリも落ち込んでしまった。

 一気に戦意が削がれてしまった。


 いや、本当に、引き戸ってなんだよ。


 サオリは雰囲気を変えるために平手を打った。


「それより、今はこれからのことを考えましょう!」

「そうだな。これって確かあたりのやつだよな?」

「えぇ。そのはずよ」


 俺たちは袋小路にいる。

 そして、石造りの何の変哲も無い通路がずっと続いていた。


 ボーナスステージにはいくつかのパターンが存在する。

 トロッコに乗って二択問題を答えていくやつとか、障害物のある通路を己の体一つで攻略していくやつとかだ。


 その時、通路の向こう側からどどどどどという音が聞こえてきた。


「きたみたいね」

「そうみたいだな」


 俺は剣を抜いた。

 すると、暗がりから大量の足の生えた四足歩行の茄子が現れた。


 なんで茄子かはわからない。

 足といっても、棒一本で書かれた簡単な足だ。

 お盆の時に飾る精霊馬が近いかもしれない。キュウリはいない。


 それが数え切れないほど大量に押し寄せている。


「やるか」

「そうね」


 俺たちは駆け出した。


「はっ!」


 俺は剣を振るう。

 一太刀で五匹の茄子が真っ二つになった。

 真っ二つになった茄子は地面に一度バウンドした後、光の粒となって散っていく。


「はあ!」


 サオリも鋭い突きで同様に三匹の茄子を貫いた。

 貫かれた茄子は串刺しになったまま光の粒となって散る。


 一撃で数匹の茄子が倒せるのはかなり助かる。


 そして、茄子が光の粒となったのとほぼ同時に、俺の頭の上には5の数字が、さおりの頭の上には3の数字が表示された。


 頭の上に数字が表示されているのは、控えめに言って間抜けだ。

 だが、今の俺たちにそんなことを気にしている暇はない。

 そんな暇があったら、一匹でも多くの茄子を倒さなければいけない。


 このボーナスステージは収穫祭と言われる。


 倒した茄子数だけポイントがもらえ、そのポイントを使ってガチャが引ける。


 まあ、一種のタイムアタックだ。


 茄子には攻撃力がないから当たってもダメージを受けることはない。

 そう意味では大当たりのボーナスステージだ。


 トロッコクイズのボーナスステージは間違えるとマグマに真っ逆さまでデスペナルティまで発生する、という鬼仕様だからそれと比べると天国みたいなもんだ。


 このボーナスだとわかっていれば適当にその辺にいた研究職員を連れてきてもよかったんだが、ボーナスステージは始まってみないと何が出るかわからないのだ。


 しばらくすると、茄子の群れは収まった。

 その代わりに、ドスン、ドスンという足音が聞こえてくる。

 どうやらボスのお出ましみたいだ。


「最後みたいだな」

「そうね」


『ぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』


 大きな鳴き声を響かせながらそいつは現れた。


 通路の奥から出てきたのは

 紫の肌、

 十メートル以上ありそうな体躯、

 それには似合わず細長い手足を持っていた。


 そう、通路の奥から茄子の化け物が現れた。

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