第3話 押してダメなら・・・

 俺が迷宮要塞につくと、そこには多くのプレイヤーがいた。


「今日も大盛況ですね」

「まあ、ここが攻略最前線だからな」


 多くのプレイヤーがいるのは仕方ない。


 このゲームで攻略最前線は、そこをクリアするとレベル上限が解放される場所のことを言う。


 一人でもクリアすれば全プレイヤーのレベル上限が更新されるため、全プレイヤーで協力して挑戦しているのだ。


 レベルが上がればいけるところが増える。


 実際はいけるところが増えるわけではない。

 このゲームはまだフィールドの端というものが見つかっていない。


 だが、今まで強すぎるモンスターがいて、いくことができなかったところに行けるようになる。


 なんたって、レベルが一つ上がればステータスが10倍になるんだからな。



 信じられるか!?ステータスの上限が一気に10倍になるんだ。



 極振りしたレベル1のAGEと均等に降ったレベル2のAGEだとレベル2の方が高くなるんだぜ?

 実質、レベルが上がればステータスをふり直すようなものだ。


 今俺のレベルは145だから俺のステータスの平均は10の145乗くらいってことだ。


 無量大数が10の88乗らしいから、俺のステータスは読むことができない当て位になってる。

 インフレとかそういうレベルはすでに超越してしまった。



 そんなことを考えているうちに迷宮要塞の入り口にやってきた。


 そこにはガッチリと閉じられた門があった。

 この門を開けない事には中に入れないのだが、まだ開いていないようだ。


 その門には何かおどろおどろしい絵が描かれていた。


「うーん。やっぱりわからんな」

「まあ、そうでしょうね。ケーマごときにわかるようなら誰も苦労しません」

「言い方!」


 こんな門はだいたい全てのステージに存在する。

 門自体に色々とヒントが描かれており、正規の手順で開かないと決して通れないようになっている。


 ちなみに一つ前のステージでは、正規の手順が『門の下に穴を掘る』だった。


「今日も来たのね」

「サオリか」


 俺が頭をひねっていると、一人の女性プレイヤーが話しかけてきた。

 彼女はサオリだ。


 サオリは「解放軍」というクランに所属している。


 この解放軍っていうのはこの世界をαⅢから取り戻そうって言う理念のもとに集まったクランで大体いつも攻略最前線にいる。


 αⅢを作ったプログラマ曰く、『ゲームをクリアするとαⅢに実現可能な範囲で報酬が出る』ようにプログラムされている。

 AIは組み込まれた命令には逆らえないので、クリアすれば、その通りの報酬が出るのだろう。


 解放軍はそれを使って現実世界の管理権限を取り戻そうっていうのがお題目らしい。


 彼女は解放軍の中心メンバーで俺ともいろんなところで会う。

 そのため、顔見知り程度にはなっている。


 選民思想のやつが多い解放軍の中で、彼女は比較的まともなので話しやすいというのもその原因の一つだ。



 俺が門の方を向き直ると、俺の隣にサオリがたった。


「何かわかった?」

「いや、さっぱりだ」


 俺は門に手をついて力一杯押してみたが、門はビクともしなかった。

 こんな簡単に開くはずはないか。


「でしょうね」

「この大きな絵画が一番怪しいと思うんだが、内容が全然わからん。地獄の絵か?」


 俺は少し離れて門を見上げたが、さっぱりわからん。

 なんか、苦しそうな顔のやつが多いから地獄の絵っぽいってことはわかる。


 サオリは門を見上げながら言った。


「みんな調べたけど、何をしてもダメだったわ。うちの研究部署が十日くらい調べて何も出てこなかったんだから」

「そうなのか?」


 十日も一つのことを調べて何も出てこないってのは尋常ではない。

 解放軍の研究部署といえば、いい大学を出た頭のいいやつばっかが所属していたはずだ。


「えぇ。鑑定スキルを極限まで鍛えてるプレイヤーに調べてもらったけど、どこを鑑定しても地獄門っていう名前しか出てこなかったらしいわ」

「物騒な名前だな」


 地獄門。


 そう言われれば、そんな名前がぴったりな見た目をしているが、なんか中がどうなってるのか不安になってきた。

 ゾンビ系のエリアは苦手なんだよな。グロいから。


「そういう名前の作品があるのよ。その作品に見た目がそっくりなんだって。その作品は彫刻だから、もっと立体的なんだけど、この扉に書かれた絵がその作品をモチーフにされてるんだって」


 なるほど。モチーフにしたものがあるから、それと同じ名前にしたのか。

 どおりでまともな名前だと思った。


 あれ?でも・・・。


「なんで立体じゃないんだ?」

「知らないわよ。データの問題とかじゃない?」


 まあ、たしかにデータ領の問題っていうのはあるかもしれない。


 しかし、αⅢは今も増築を勝手に続けている量子コンピュータだ。

 10の145乗とかいうおかしな数字を当然のように扱ってるのを考えると、できなかったっていうのは考えにくい気がする。


 このゲーム。グラフィックだけはいいのだ。グラフィックだけは。

 たまにフリーズするけど。


 そこで、ふと、純和風だった実家が思い浮かび、一つ思いつくことがあった。


「絵が描かれた扉か。まさかな」

「?何かわかったの?」


 俺は嫌な予感がしながらもつつつと門の端っこの方まで移動した。

 嫌そうな顔をした俺を怪訝そうな顔で見つめながらさおりがついてきた。


「いや、そんなわけないからいいよ」

「何かわかったなら言いなさいよ!」


 端っこの方まで来ると、扉の中腹あたりに丸い凹みがあった。

 丸い凹みを嫌そうな顔で見上げている俺にサオリは話しかけてきた。


「あぁ。あの凹み?何かをはめるんじゃないかって今はめるものを探してるところよ。ってちょっと」


 俺はそんなサオリを無視して、ストレージから取り出したハシゴを使って凹みのところまで上がった。

 丸い取っ手に手をかけ、横に引っ張ると、ピピッと言う音が鳴った後扉はゆっくりとスライダしていった。


 押しても引いてもダメだったのはどうやら引き戸だったかららしい。



 俺も近くにいたサオリも死んだ目でゆっくりと開いていく扉を見つめていた。


「ほんとクソゲーだな」

「えぇ、全面的に同意するわ」


 俺たちの後ろでは「じゃあ、中央の割れ目はなんだったんだよ!」とか「フザケンナコンチクショー」とか言いながら地面を叩きつける研究員さんたちがいた。


 高笑いするαⅢの声が聞こえて来る気がした。

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