第2話 ホームの利用料は高い

 俺は転移を使ってホームへと戻ってきた。


 俺が使っているホームは落ち着いた木目調のログハウスのような場所だ。

 妹の意見が100%通ってここになった。


 他にもレンガ調だったり、ゴシック調だったり、近未来的なサイバーなデザインもあるらしい。



 このホームには機能がいろいろとある。


 よく使うのは武器やアイテムを補完できる倉庫機能とSキャッシュの補完もできる金庫機能だ。

 ほとんどのユーザーは使っている。


 特に金庫機能は重要だ。


 手持ちのSキャッシュは死亡した場合、デスペナルティで七割が持っていかれる。

 七割だ。

 他のゲームだと多くて五割なのに。


 リアルの財布と直結してるこのゲームでそんなに持っていかれたらたまったものではない。


 しかし、ホームに置いてあるSキャッシュはほとんど減らない。

 リアルで使う場合も、サポートAIに頼めば簡単に引き出せる。

 そうなれば、使わない人はいないたろう。


 いや、ほとんどいない。

 何人か使ってないやつの顔が思い浮かんだが、あいつらが変態なだけだ。


 だが、便利なものには当然、それ相応の対価が必要だ。


 ホームを利用するには利用料を支払う必要がある。

 その価格がほぼリアルの家賃と一緒だという鬼畜設定だったりする。


 別にそこにリアリティは求めてないんだけどな。



 俺がホームの共有エリアに入ると、妹のカオリが掃除をしていた。


 バーチャル世界で掃除ってなんだよ。って思うかもしれない。

 だが、この掃除もしなければ次第にホームの耐久値が減っていく設定になっている。


 そして、耐久値が減っていくといずれヤツが出る。

 そう、一匹いると三十匹いるヤツだ。


 ヤツらが出ると、ホームに置いてあるアイテムが壊れたりするらしい。


 そんなところをリアルに寄せなくてもいいじゃねえか!

 ほんと、神ゲーだよな! コンチクショウ!



 まあ、うちの場合は、一緒に使っているカオリが几帳面で掃除してくれる。

 だから未だにヤツらをみたことはない。


 もし俺一人だったら絶対にヤツらの巣窟にしていたな。


「あ、おかえりー」


 カオリは俺が部屋に入ってきたことに気づくと、顔を上げて笑いかけてきた。かわいい。


 カオリは我が妹ながら美少女だと思う。


 このゲームは何もしなければリアルと同じ外見になるのだが、カオリは外見を変更していないらしい。


 甲斐甲斐しく世話をしてくれて、美少女で、笑顔が可愛い。

 ファンクラブがないのがおかしいくらいだ。


 まあ、あったらあったで、お兄ちゃん心配なんだが。



 俺は装備を解除しながらカオリに返事をした。


「ただいま。そっちは今日何やってたんだ?」

「今日は装飾品の生産がメインかな。今は今日の注文分は全部作り終わったから掃除してたとこ。今日もいい売り上げになったよ」


 カオリは生産職でこのゲームをプレイしている。


 鍛冶や錬金術など、生産職としての技能は一通り持っているらしい。


 中でも彼女は装飾品系のアイテムをたくさん作っており、センスが良くファンがいるほどの人気らしい。

 自慢の妹だ!


「そっか。あ、香織が欲しがってた幻狼4の牙ドロップしたぞ」

「ほんと? やった! これでレベルアップできる。お兄ちゃん、ありがとう!」


 生産職は稼ぎやすいが、レベルを上げるのが難しい。


 というのも、レベルアップの条件が各レベルで指定のアイテムを作ることだからだ。


 必要なアイテムを手に入れるために、かなりのお金を使うか戦闘レベルを上げて自分で取りに行く必要がある。


 カオリは俺がアイテムを取ってくるから高レベルになっていた。



 カオリは俺からもらったアイテムを持ってくるくる回っていたが、何かに気づいたようにピタリと止まった。


「あ、お兄ちゃん。晩ご飯これから作るんだけど、一時間後でいい?」


 カオリは家事が趣味で色々とやってくれている。


 特に彼女の料理は絶品なのだ。

 なんと言っても煮込みハンバーグがうまい。


 俺は無意識に垂れそうになったよだれを飲み込んだ。


「おぉ。大丈夫だぞ」

「わかった。じゃあ、作ってくるね」


 そう言いのこして、カオリはログアウトしていった。


 俺は椅子に座って手持ちのアイテムや今日稼いだSキャッシュをホームにうつしたり、武器や防具の耐久度のチェックを行った。

 これを怠るとやばいことになる。


 前に一ヶ月くらいやらないで、戦闘中に防具が壊れて死んだことがある。

 その時はデスペナルティで半月分の稼ぎが吹き飛んでしまった。


 流石に温厚なカオリもこの時ばかりは本気で怒り、三時間も口を聞いてくれなかった。

 もうあんなつらい思いは嫌だ。



 俺が武器や防具の耐久度が問題ないことを確認して一息ついたタイミングで、ミーが話しかけてきた。


「ケーマ、この後どうしますか?」


 夕食まで約一時間空いている時間がある。

 一狩り行くには少し短く、ぼーっとするには少し長い。


「そうだな。晩飯まで大体一時間くらいだと思うし、迷宮要塞へ行ってみるさ」

「そうですか。では行きましょう」


 ミーが俺の周りを飛び回る。


 そして、俺は今の攻略最前線である『迷宮要塞』へと転移した。

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