闇エルフの少女との逢瀬

 マリアと静香が邪神に飲み込まれた――その衝撃も冷めやらぬ内に更に邪神は動き出した。


 <死>の魔眼を力で振り切ろうとする。


 スノウウィンドに騎乗した死神の騎士アトゥームは正面からの攻撃は無駄とみて背後に回って翼を切断しようとする。


 邪神は足を滑らせるようにずるずると移動を始めた――カタツムリの様なのろさだ。


 アトゥームの魔剣をもってしても邪神にはかすり傷しかつかない――それでもアトゥームは諦めなかった。


 遂に翼の根元にヒビが入る――。


 しかし邪神は出来の悪い人形の様に首を真後ろにひねると触腕で襲い掛かった。


 アトゥームは際どい所で攻撃範囲から逃れた。


 諦めない――全員がその意志で一致する。


 その思いは無駄にならなかった。


 三十分も戦ったろうか――よろよろと前進していた邪神は突如足を止めた。


 上を向いて苦し気な呻き声を上げる。


 凄まじい絶叫と共にゴムの様な胴体が突然破裂した。


 中から暗緑色の塊――邪神の血の塊だ――が飛び出す。


「マリアちゃん、静香ちゃん!」真っ先に気付いたのはホークウィンドだった。


 血の塊の中に居たのは球体状の結界に包まれたマリアと静香だった。


「無事だったのね――」シェイラが安堵の声を上げる。


「まだよ――心臓を破壊しきれない!どうしても斬れない急所が有るの!」静香が喚く。


 地響きをたてて邪神は倒れ伏した。


「そこまでで十分だ――この邪神はこの世界と己の命を一体化する事で不死身と化した――だが手が無い訳でもない」<死>の女神モルエニが邪神の頭部に降り立つ。


「邪神よ――確かにお前は不死身だ。だが死の様な眠りにお前は耐えられるかな――夢も見ずにこの宇宙が終わる迄眠り続けるがよい」


 邪神は恐怖の眼差しでモルエニを見る。


 モルエニは邪神の額を指で突いた。


 邪神の瞳から光が失われていく。


 静香は邪神の急所が殆んど光を失った事を神殺しで知覚した。


「終わったんですか――?」マリアが恐る恐る尋ねた。


「ああ、終わりだ――良く働いてくれた。神殺しの戦士――七瀬真理愛に澄川静香よ」


 邪神の身体は氷が解ける様に消えて行く。


「邪神に囚われていた魂も解放された。この世界を狙う外なる神々も、他の邪神も当面この世界を侵そうとはしないだろう――いつまでもとはいかないかも知れないが」モルエニの姿は薄れ始めた。


「この世界でお前達と会う事はもう無いだろう――お前達の未来が良い物である事を祈っている。この世界とお前達の世界の合が来るまで今少しの時間が有る――それまでにやりたい事をやっておくが良い」女神の声だけが聞こえた。


「次に会う時は私達が死ぬ時ね――それまで悔いの無い様に精一杯生きるわ――マリアも私も。たとえ<死>の貴女でも私達を分かつことは出来ない――それを証明してみせる!」静香が大声で呼ばわった。


「私もそれを願う――神殺しよ」<死>は微笑んだ。


 こうしてマリア達の最後の戦いは終わったのだった。


 *   *   *


 マリア達はダークエルフの王国に一週間程滞在してから地上に帰る事になった。


 邪神をたおした者として勇者扱いだった――ブラッドホイール達の一族にも出来るだけ寛大な処分を願い――大体は通ったのだ。


 ブラッドホイールが自害する事――マリア達は助命を嘆願したのだが、流石に通らなかった――もそれを後押しした。


 あのまま邪神を放っておけば王国の大半が犠牲になったろう。


 中には神殺しの力を手に入れようとマリアと静香を狙う者も居たが王女モーラが事前に殆んどを防いでくれた。


 一週間はあっという間に過ぎた。


 ただ二人には納得のいかないことが有った――モルエニ召喚の生贄に使われる筈だった闇エルフの少女――年端もいかない、人間なら12~13歳程だった――が免責されてそのまま闇エルフの社会に戻る事になったのだ。


 絞首台で縄が切れたりギロチンが途中で止まったりして死を免れた者に再度刑は執行しない――元の世界でもそういう慣習が有ったのでそれは分かっていた。


 しかし死刑にされるから身体を許したはずなのに御咎めなしでは――刑を免除されて良かったと思う反面腑に落ちない――顔から火が出るような思いで求めに応じたのに――軽くともせめて何らかの罰則が与えられて然るべきでは無いか。


 そんな思いに囚われながら二人がランタンで通路を照らしながら――エルフは――ドワーフもそうだが暗闇でも目が効くため地下でも照明されている所は殆んど無いのだ――王宮を歩いていると当の少女に出くわしたのだ。


 その少女――オーリャという通称しか二人は知らなかったが、顔を忘れる筈も無かった。


「ごきげんよう。麗しき私の一夜妻達」オーリャは二人を見かけるとニッと笑った。


「ごきげんよう。オーリャ」二人は反応に詰まったが、マリアが気を取り直した。


「ごきげんよう。何か私達に用?」静香が剣呑な声で応じた。


「用って程でも無いけど――顔が見たかった――それだけじゃダメ?」悪戯っぽい笑みが広がる。


「貴女は連続快楽殺人の罪で処刑される筈だった危険人物でしょう――警戒されるのは当たり前だと思うけど」


「酷い言われようね――まあ事実だけど」


「用が無いなら私達はこれで――」マリアが話を断ち切った。


 脇を通る二人をオーリャは熱っぽい視線で追いかける。


 二人は溜めていた息を角を曲がった所で吐き出した。


 忘れたいのに忘れられない――我知らず二人は思い出していた。


 *   *   *


「まず、二人で抱き合ってもらいましょうか」オーリャが目を輝かせて宣言した。


 マリアと静香は既に一糸まとわぬ姿だった。


 二人は耳まで赤くして互いを見つめあっている。


 赤の他人に裸を見られる事がここ迄恥ずかしい事だとは――湯浴みの時にホークウィンド達に身体を見られるのも恥ずかしさは有ったが、これから三人で愛を交し合うという事実が尚更マリアと静香の羞恥心を煽った。


 二人とも同性愛者だったことも有り、女性の裸をまともに見るのは苦手意識が有った――性的な事を意識してしまうからだ。


「ゆっくりで良いのよ――あまりがっついた様子だと興ざめしちゃう」


“人の気も知らないで――”思わずマリアはそう言いそうになった。


 死刑囚の最後の願いという事でオーリャが望んだのはマリアと静香の二人を抱きたいという事だった。


 男だったら何であろうと即座に断っていたのに――マリアと静香は神を恨んだ。


 殺人を犯せない様魔法が掛けられていたがそれはマリア達も魔法が使えないという諸刃の剣だ。


 武器も当然取り上げられていた。


 オーリャは行為の最中に相手を嬲り殺す事に快楽を覚える異常者だった。


 マリア達の安全を確保する為魔法で見張られているのも恥ずかしさに輪を掛けた。


 異世界人と情交を結ぶ――その事実だけでオーリャは卒倒しそうな興奮に包まれていた。


 ――これでこの二人を殺せれば言う事が無いのに――


 叶わないと知れば知るほどそうしたいと思ってしまう。


「いつもお互いにしてる様にして――」言われてマリアは静香に身体を押し付ける。


 唇を食むだけのキスをして、触れるか触れないかという程度で胸を触る。


「ん……」静香の口から息が漏れた。


 オーリャが興味深々と言った様子で二人を間近に眺める。


「あんまり見ないで……」


「駄目よ――ちゃんと見せてくれないと」オーリャが断ずる。


 マリアは静香の首筋に唇を這わせる――なる様にしかならない――諦念に近い思いが逆にマリアの被虐心を煽った。


「マリア――?」いつもより熱のこもった攻めに静香は狼狽した。


「仕方ないです――先輩。覚悟を決めて――」マリアの目には暗い情熱が有った。


 その目を見てオーリャは更に興奮を昂らせる。


 こらえきれなくなったオーリャは遂に静香の胸をやわやわと触り始めた。


 次第に乱暴に揉みしだく。


 空いている手は自分の秘所を弄んでいる。


「ちょっと――」静香は不意に襲ってきた快感に息を詰まらせた。


 マリアも自分を抑えきれなかった。


 二人は乱暴に静香を押し倒す。


 喘ぎ声がオーリャの口で塞がれた。


 静香の一番大切な所に優しく指が入れられる。


 力を込めてかき回された。


 二人掛かりで攻められてチカチカと白い光が静香の頭の奥で弾けた。


「――っやあああ!」一際大きな光が閃いて静香は嬌声を上げた。


「――先輩――今度は私に――」マリアが頬を上気させてねだってくる。


「楽しみましょう――もっと――おかしくなっちゃうくらい」オーリャが便乗してくる。


 半ば朦朧としながら静香は二人の求めに応じた。


 そして三人は一晩中貪欲にお互いを求め続けたのだった――。

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