復活――邪悪なる海神 ※末尾に設定ラフ画を載せた近況ノートの日付が書いて有ります、参考までに

 ダークエルフの族長ブラッドホイールは確かに死神の騎士アトゥームの心音が止まる感触を炎状刃細身剣フランベルジュレイピアを通して右手に味わった。


 だが、違和感が拭えない――。


 真っ白な光が二人を包んだ。


“何だ――これは!?”細身剣が押し戻される。


 そのままアトゥームの身体から細身剣は押し出された。


 ブラッドホイールは剣を取り落しそうになる。


 光はアトゥームの左薬指から出ていた。


 アトゥームの瞳が光を取り戻す。


“――まずい”ブラッドホイールは退こうとした。


 ほんの一瞬の迷いが致命的だった。


 アトゥームの両手剣ツヴァイハンダーがブラッドホイールの右手首を切り飛ばす。


 細身剣は握った右手ごと音を立てて地面に落ちた。


「ぐ……ッ」ブラッドホイールは左手で止血の魔法を掛ける。


「止めろ人間。勝負はついた――我が主の負けだ」止めを刺そうとするアトゥームに敵方の闇エルフが割って入った。


「どけ。そいつは俺の――エルフィリスの仇だ」アトゥームは冷たい怒りに声を震わせていた。


 その時<死>の女神モルエニの声が響いた。


「止めよ。我が騎士よ――お前らしくもない」


「何故だ。何故止める――」


「冷静になれ――こやつを生かしたとて更なる害をもたらす訳では無い――最早敗兵だ。それにこやつを斬った所で今更エルフィリスが戻ってくる訳では無い。怒りに任せて人を殺すなとマリア達に諭したのはお前自身の筈だ」


「しかし――」


「皇妃アレクサンドラの力が無ければ死んでいたのはお前だ――」


 アトゥームはそこで自分がなぜ生きているのかを悟った。


“アトゥーム様――”アレクサンドラの念話テレパシーが頭に響く――自分が死んだ思った時に光ったのは皇妃から渡された婚約指輪だったのだ。


“勝手な事とは思いましたが――指輪を通じて貴方を確認しておりました――命の危機が迫った時に助けられる様にと”


 心臓が止まった時、アレクサンドラは指輪を通して蘇生魔法を掛けたのだ。


 それが無ければ確実に死んでいた――その事実がアトゥームを冷静にさせた。


 深く呼吸して頭を軽く振った。


 深藍色の瞳から怒りの色が消える――その瞳はまだほのかに揺らいではいたが。


「兵を引け、族長ブラッドホイール。邪神の復活を止めるならこちらもこれ以上の攻撃はしない」


「応じよう――私の命と引き換えに一族の存続が保証されるならな」ブラッドホイールは治癒術士ヒーラーによる手の接合魔法を受けながら不遜に応えた。


 その時辺りを風が覆った。


 忌まわしい吠え声と共に山の様な巨体が現れる。


 逞しく太った巨体に翼が羽ばたいた。


 マリア達が転移の魔法で出現した。


「義兄さん――済まない、邪神の復活を阻止できなかった――」ラウルが早口に言った。


「総掛かりで当たるしかないわ――弱点は心臓だけど辿り着けないの!」静香が叫ぶ。


“アリオーシュが存命していた時にはかの女神に封印されていたのだ――このままだと地上に出る”モルエニが伝える。


“飛べるものは飛べ――邪神の飛行能力は私が抑える”モルエニは死神の騎士の武具から実体化する。


 白銀の長髪をなびかせた黒い女神だ。


 その姿を見た邪神は明らかに怯え――そんな感情が邪神に有ればだが――狂った様に翼を羽ばたかせる。


 しかし邪神の脚は地面に吸い付いたかのように離れない。


 モルエニの魔眼の力だった。


 有翼一角馬アリコーンホワイトミンクスに跨ったマリアと静香、空中を走ることが出来る死神の騎士の愛馬スノウウィンド、龍族本来の姿に戻ったシェイラ、戦方士達が舞い上がる。


 モルエニもふわりと空に浮かぶ。


 ラウルは空を飛ばず地上から魔法で援護する構えだった。


 静香とマリアを先頭に邪神に突っ込んでいく。


 ホークウィンドを乗せてシェイラは炎のブレスを吐く。


 龍の王国ヴェンタドールの女勇者シーナを騎乗させた雌白龍ヴェルニーグも凍気のそれを吐いた。


 しかし邪神はそれを物ともせずに暴れ回る。


 マリアは防御結界を最大の力で展開した。


 ラウルがさらに結界を上掛けする。


「迎撃は俺達に任せろ――お前達は弱点を目指せ」魔法具の力で並んで飛ぶナグサジュが伸びてくる触腕を叩き潰す。


 静香は神殺しの魔力を発動し光の刃を進路に飛ばす。


 触腕が数本切断された――しかし邪神の再生能力が高い。


「行って――静香ちゃん、マリアちゃん!」ホークウィンド達が再生した触腕を食い止めながら呼ばわる。


 見るとホークウィンド達以外にも古吸血鬼エルダーヴァンパイアのアレトゥーサとカーラムも宙に舞いながら戦っていた。


 爪を伸ばして触腕に突き立てる――触腕は見る間にしぼんでいく。


 マリアに神殺しの力を増幅された静香は更に光の刃を飛ばす――海を渡るモーゼの如く前を塞ぐ触腕が切断された。


 無数の触腕が邪神の口の周りから生えていた。


 直径1メートルを超える――いや、それ以上に太い――が行く手を遮ろうとする。


 諸に食らえば自分もマリアも無事では済まないだろう――ほんの一瞬静香は最悪の事態を想像した。


 触腕の動きはまるで海星ひとでが足を延ばす様子を思い起こさせた。


 間一髪の所で静香とマリアは襲ってきた触腕を躱し、邪神の懐に潜り込む。


 そのまま心臓まで一気にホワイトミンクスは空中を翔けた。


「もらった――」静香は両手に握った神殺しを突き出す。


 神殺しが邪神の心臓を貫く――かに見えた。


 まるで果物の皮を剝く様に邪神の胴体がぱっくりと八つに割れる。


「!!」静香とマリアは眼を見開いた。


 勢い余った静香達は邪神の体内に突っ込んだ。


「マリアちゃん!静香ちゃん!!」ホークウィンドが金切り声で叫ぶ。


 見る間に二人と一頭を飲み込んだ “口”が塞がる。


 最初からそんなもの等存在しなかったかの様に胴体が元通りになった。


 二人は邪悪なる海神に食べられたのだ。


「そんな――」シェイラも愕然とする。


“神殺しが負けた――”全員が今しがた起こった事を信じられなかった。


「ヲヲオヲヲ――!!」地下王国全体に邪神が放つ鼓膜を破る程耳障りな勝利の咆哮が響き渡った――。





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 近況ノートに載せたイラストの年月日を書いときます

 ラフ画ですがイメージを掴んで頂けたら幸いです


’21/7/25  七瀬マリア

’21/8/1   深緋の稲妻スカーレットライトニングの鎧を着けた澄川静香

’21/8/8   死神の騎士 アトゥーム=オレステス

’21/8/15  不老不死ハイエルフの女忍者ホークウィンド

’21/8/22  軍師ウォーマスターラウル=ヴェルナー=ワレンブルグ=クラウゼヴィッツ

’21/9/12  アトゥームの両手剣ツヴァイハンダー、又の名をデスブリンガーと他の剣との比較図

’21/9/19  古吸血鬼エルダーヴァンパイアカーラム=エルデバインの完全武装時

’21/10/31 深緋の稲妻スカーレットライトニングの鎧

’22/4/17  闇エルフの王女モーラ(モルナシレレンローテ)


 観たくない方は無視してください

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