再び黒の塔へ――

「結局、ここに戻ることになったんですね」有翼一角馬アリコーン“ホワイトミンクス”の鞍の後ろに乗ったマリアが黒い石でできた塔を見上げ嘆息した様に言う。


「何の因果なのかしら」マリアの前に騎乗した静香も溜め息をついて同調した。


 マリア、静香、エルフの女忍者ホークウィンド、黄金龍ゴールドドラゴンの娘シェイラ、エルフの治癒術士ヒーラーアリーナ、傭兵にして現グランサール皇国戦皇アトゥーム、軍師ウォーマスターラウル、ハーフエルフの女精霊使いシルヴェーヌ、そして無理矢理パーティーに付いて来た皇妃アレクサンドラは対魔族戦に選ばれた兵士と魔術師から成る300名の精鋭と共に、最初に前戦皇エレオナアルと龍の王国ヴェンタドールの前勇者ショウがマリア達を召喚した塔――黒の塔に戻って来た。


 ここから混沌の女神アリオーシュが軍勢を引き連れて進軍してくるとラウルが読んだのだ。


 エセルナート王国、魔導専制君主国フェングラース、ガルム帝国、エルフ軍、その他の有志の国からも援軍が来る予定だった。


 ヴェンタドールからも少数ながら軍が派遣される。


 魔族を塔から出さずに殲滅し、勢いをかってアリオーシュの本陣に攻め込む。


 本陣まではかなりの距離が有ると調べが付いていた。


 魔族の一般兵をこちらの軍が相手し、その隙を突いてアリオーシュの懐に入り込む予定だった。


 アリオーシュ四天王も、大悪魔グレーターデーモンも出てくるかもしれない、いや、恐らく出てくるだろう。


 農民兵等の招集兵では相手にならない――手練れという言葉では足りない程の精鋭が集められた。


 最初に塔に着いたのはマリア達と皇国軍だった。


 各国からの軍は悪魔族デーモンと戦える程の精鋭を集めるのに時間が掛かっていた。


“ここでジュラール=ド=デュバル卿は亡くなったのですね”有翼一角馬アリコーン“ミンクス”がマリア達に聞く。


「ええ」静香が頷いた。


 あの時の事は今でも覚えている――自分の剣の師範だったジュラールがエレオナアル達に裏切られて自害した――。


「もうあんな事は起こさせないわ――」


 アリオーシュが何時侵攻してくるかは分からなかった。


 近い内に――というのが分かった事だった。


 アリオーシュが攻めてこなくても各国の軍が揃い次第、混沌界のアリオーシュの元に攻め込む――。


 黒の塔に駐屯した軍勢は三交代の態勢で混沌界からの侵攻に備えていた。


 マリアと静香は以前の部屋とは違う部屋に泊まる。


 二人に大事が無いようにラウル達も同じ階の部屋に泊まる事になった。


 マリアは連れて来た使い魔の白猫“しーちゃん”を部屋に放す。


 扉が閉まった直後マリアは後ろから静香に抱き締められた。


 こちらの世界に来てから使っているバラの石鹸と静香自身の匂いがマリアをふわりと包んだ。


「先ぱー……」静香の手がマリアの手を抑える。


 マリアは足を閉じようとしたがそれより早く静香の手が滑り込んだ。


「駄目です――」マリアは抵抗しようとするが、身体に力がこもらない。


 背に静香の乳房が押し付けられるのを感じた。


 背中だけでなく身体全体が痺れる様な熱さに身をよじる。


「何が――駄目なの?」静香は押し付けた胸を動かしながらマリアの首筋を噛む。


 マリアは噛まれた首筋からぞわぞわした感覚を覚えると共に身体の中心に熱がこもってくるのを感じた。


 静香の左の手がマリアの胸を優しく揉みしだく。


 マリアの脚の間に入った右手は徐々に大事な所に近づいてくる。


 右手で静香の手を抑えようとするが却って手を押し付ける結果に終わってしまった。


 静香は首筋から顎のラインを唇と歯で吸い上げるとマリアの唇を奪う。


「ン……っ」マリアの抗議は口で塞がれてしまう。


“先輩――”マリアはもがくが増々静香に絡め捕られる様に包み込まれてしまう。


 身体にこもった熱が胸と女性の部分への心地よい刺激で増々昂ぶっていく。


「好きよ――マリア」唇を離した静香は陶酔した声でもう一度マリアの唇を貪った。


 脳裏に白い光が走って思わずマリアは強く静香を抱きしめた。


「マリア――お願い」静香が上目遣いで懇願する。


 マリア達は寝台まで移動すると静香は下になってマリアの首に両手を回す。


 マリアは静香の胸を揉むが右の手を静香に掴まれた。


 そのまま手を静香の秘所に誘導される。


「いつもよ――」また唇を塞がれた。


 マリアは一生懸命に静香を攻める。


 静香の身体の反応を見ながら静香の感じる所を刺激した。


 静香はマリアに身体を押し付けて声を殺して身悶える。


 静香が上気した顔で上を見上げる。


 その瞳に殺気が宿るのをマリアは見逃さなかった。


「先ぱ――」


 静香は護身用のナイフを部屋の天井へと投げつけた。


 中空でナイフは何かに刺さった様に止まる。


「ぐ……ッ!」


 途端に透明だった姿が色を帯びる。


 赤と紫の体にぴったりとした服に身を包んだ美しい少女が口から青の血を吐く。


「貴様――気付いて――」美少女――腰から生えた翼が悪魔族デーモンだとマリア達に教えた――は刺さったナイフを抜こうとするが抜けなかった。


「おかしいとは思ってたわ」静香は髪をかき上げた。


 悪魔を真正面から見据えて言う。


「アリオーシュ配下の四天王、女夢魔サキュバスのリリス。久しぶりね」


何時の間にか静香の左手には日本刀“神殺し”が握られていた。


「そして――ごきげんよう」静香は右手を引く。


「ああッ!」魔法の鎖で繋がれたナイフが静香のいる所迄引っ張られる。


 リリスはナイフごと静香のいる所へ落ちていった。


“神殺し”の一撃がすっぱりとリリスの首を落とす。


 リリスの身体と首は音も立てずに寝台の横に落ちた。


「まず――一人」


 マリアは慌てて生物検知の魔法を唱える――“しーちゃん”とマリア達以外の反応は無かった。


「他には居ないでしょう――悪魔も何も」


「はい。先輩――何時からリリスは私達を」


 リリスの骸は光り輝く塵となって消えていく。


「この塔に来てからじきに、ね」


「私達の情事の隙を突いて混沌界に連れ去るつもりだった――そういう事ですか」


「――十中八九そうね」


 “神殺し”桜花斬話頭光宗で斬られた魔族や神族は絶対死する。


 四天王リリスはこうして静香に討たれた。


 マリアと静香を自分のものにするというアリオーシュの野望の一歩はくじかれたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る