女勇者対救世の乙女達――その2
その時、マリア達は信じられないものを見た。
見えない壁に炎が防がれた。
“沈黙の範囲”にいた女勇者シーナが唇一つ動かさずに魔法を使ったのだ。
魔法の
シーナがニヤリと笑う。
「無詠唱魔法――」シェイラが信じられないという風に言う。
「魔法に優れているって言っていたけどそういう事――」静香も驚きを隠しきれない。
念じるだけで魔法を発動させるようになるには相当の習熟が必要だ。
炎は防がれたがダメージは与えたのか動きが鈍く感じられる。
“沈黙の範囲”から相手を出さない――マリア達はそうしようとした。
エルフの女忍者ホークウィンドの複製がマリア目掛け突っ込んでくる。
同時にシーナが仕掛けてきた――複製のホークウィンドよりも早い――マリアには信じられなかった。
複製はもろに体当たりを受けよろめいた。
一方マリアは動体視力ギリギリの速さで攻めてくるシーナの剣を何とか受け止めた。
しかし続けて二撃目が来る。
今度は止められなかった。
“先輩――!”マリアは思わず目を閉じそうになる。
しかしマリアの想いは無駄にならなかった。
赤黒い影がマリアの前に立ち塞がった。
甲高い金属音が響く。
深い赤色の鎧という事にマリアは一瞬遅れて気付く。
「――静香先輩!」静香がマリアを庇ったのだ。
静香は“神殺し”――桜花斬話頭光宗で勇者セトルの剣、ジャスティスブレイドを受け止めていた。
「私の可愛い後輩を虐めようなんて、やってくれるじゃない。女勇者シーナ」
「言ってな――お前等さえ倒せるなら私は――」強敵と闘えるという喜びと兄の敵を
シーナの狙いはマリアと静香だった。
その二人に直接止めをさせれば後はどうなろうと良かった。
王国も国民も王家も勇者の一族も自分自身さえも犠牲にしても七瀬真理愛と澄川静香を
それがシーナの決意だった。
シェイラとホークウィンドは複製の自分達と戦っていた。
マリアと静香の複製はマリア達を狙って動き出していた。
このままでは圧倒される――マリア達は焦燥を覚える。
マリアが目くらましの魔法を掛ける。
その隙に静香は自らの剣の師範ジュラールの指輪の力を発動させ、左の手首に装着している
多数の敵に対処する構えだ。
マリアは後衛に入り魔法で静香を援護する。
静香の複製とシーナが同時に襲い掛かってくる。
マリアは防御結界の魔法を静香に掛けた。
シーナのジャスティスブレイドが十字架の様な軌跡を描いて静香に迫った。
二連撃が結界に阻まれる。
シーナが舌打ちする。
複製の静香の“神殺し”が静香の左の小太刀に止められた。
同時に静香の右の一撃が複製の静香を襲った。
複製の静香は
体勢を崩されかかった静香は左斜め前に前転しながら受け身を取った。
そのまま下から上に“神殺し”を切り上げる。
虚を突かれた複製の静香は右腕に裂傷を負った。
“いける――”静香は畳みかけようとする。
しかし複製は痛みを感じてはいなかった。
血を噴き出しながら複製の静香は“神殺し”を静香に振り下ろす。
辛うじて静香は複製の一撃を止めた。
複製の腕から血がさらに
静香は更に右腕を狙う――血しぶきを撒き散らしながら今度こそ静香の複製の右腕は切断された――複製は残った左手で小太刀を抜くと更に静香を襲おうとする。
静香は足払いを複製に掛けた。
意表を突かれたのだろう――複製はあっさりと転んだ。
間髪入れずに静香は“神殺し”を複製の心臓に突き立てた。
“神殺し”は鎧を貫き、複製はびくりと手足を投げ出すように突き出して動きを止めた。
複製の身体は光輝く塵となって消えて行く――しかし静香はそれを悠長に眺めている余裕は無かった。
「――マリア!」静香はマリアの安否を確認する。
マリアはシーナに押されていた。
シーナの周りに光の矢が浮かぶ――それも一本ではない――十数本もの光だった。
シーナは勇者の剣“ジャスティスブレイド”でマリアを攻撃しつつ同時に呪文を唱えていたのだ。
マリアは剣戟を防ぐのに精一杯でシーナの呪文にまで手が回らなかった。
静香は駆け付けようとして足が動かないのに気付いた。
複製のマリアが“根がらみ”の魔法で静香の動きを封じている。
「マリア!!」静香が絶叫するのと魔法の矢がマリア目掛けて一斉に放たれたのは同時だった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます