転回

静香とマリアの新たな修行と冒険の始まり

 静香とマリアはこうして死神の騎士たちと共にグランサール皇国とその同盟国、そして混沌の女神アリオーシュと戦うこととなった。


 ガルム帝国軍が黒の塔に到着するまで10日と数日、その時まで二人は塔に滞在し、その後、更なる修行と装備を整える。


 静香は死神の騎士アトゥームと不老不死エルフ、ホークウィンドに武術を、魔法をラウルから学ぶ事にし、マリアは最低限の護身術と白兵戦での防御、攻撃の捌き方を習うことになったが、マリアは魔法の力を身に付けたいと言い、魔法、特に回復、防御、治癒魔法の手ほどきをラウルとアリーナから受ける事にした。


 二人はエルフたちからは剣舞ソードダンスや精霊魔法などを教わった。


 静香とマリアはエルフたちへの受けが良かった。エルフたちが生き残ったグランサール皇国の騎士たちなどから二人の話を聞いていたためだ。


 静香は残念ながら魔法を使うことはできなかった。


 ラウルは「いずれ使えるようになるかもしれないし、相手の魔法の対処法を覚える機会にもなる、学んでおいて損はないよ」と静香に言い、静香も魔法について一応のことは学ぶことになった。


 アトゥームは静香の剣筋を見て「基本は出来ている」と言って、あとは経験を積むだけで大丈夫だろうと太鼓判を押した。


 ショウとの戦いで大盾が厳しいというと、アトゥームは大盾を使って自分の剣筋を隠して攻撃されているからだと分析した。


「ショウの大盾には盾で隠れた相手の姿を透かして見ることが出来る魔法がかかっている。魔法のかかっていない普通の大盾ならお前の剣で十分対抗できるが、その魔法を破るか、大盾を引いて片手半剣バスタードソードで攻撃に来るところを見切らないといけない」


 アトゥームは大盾と片手半剣バスタードソードで静香を相手に戦ってみたが、攻撃しすぎだと判断した、ショウの徹底した後の先の戦法に自らはまりにいっていると。


 その結果できた隙を突かれて敗北した、実力というより戦い方の問題だと指摘した。


 静香は両手剣のアトゥームとの手合わせをしてみた、結果はまるで歯が立たなかった。


 ショウよりもはるかに速い。


 剣筋を見ることも出来なかった。


 気づいた時には剣が急所に突き付けられているという感じだった。


 静香とマリアの連携しての戦い方を覚えるために、アトゥームに二人がかりでかかったが結果は同じだった。


 静香も一緒に訓練に参加したマリアも到底勝てないと思ったがアトゥームは「慣れていないだけだ」と言った。


「経験を積めば見切れるようにも捌けるようにもなる」と。


「目だけに頼るな」繰り返しアトゥームは言った。


「攻撃しようとする気配を察しろ。空気の流れ、音、全てを使って動きをつかむことだ。直観に頼れるようにならないと駄目だ」

 

 静香は不殺を通したいと言ったが、アトゥームは「相手を傷つけず、自分も傷つかずに勝利するのは理想だが、そうできない相手もいる。完膚なきまでに叩き潰す覚悟も持たないと、マリアはおろか自分自身も守れなくなる」と言った。


「自分自身の為以外に剣を振るうというのは偽善だ」とも。


「そんなことはないわ」と静香は反論した。


 アトゥームはこう続けた「愛する人を護るというなら、護りたいと思う自分の心の為に剣を振るえ」と「他人の為に人を殺すならいずれはそれを恨む日が来る」


「人としての尊厳がかかった時に戦え」


躊躇ためらうなら剣を抜くな、剣を抜いたら躊躇ためらうな」


「マリアに自分が必要だと思わせる剣を振るえば、それはお前の為にもマリアの為にもならない」


「それは戦場を生き抜いてきた者の真理?」静香は問う。


「いや、俺の経験だ。真理などというつもりはない。信じろとは言わない。自分の真実と同様、自分の強さも自分で組み上げるしかない」


「俺の言うとおりにすれば良いとは言わない。お前もマリアも経験を積む過程で、自分なりのやり方を見つけるしかない。自分の殉ずる戦い方を見つけられなかったらそれは悲劇だ。他人の戦い方から学ぶだけでは駄目だ。真の強さは自分のやり方からしか見つけられない」


「死神の騎士という割に、ずいぶん慎ましいのね」


「もっと尊大に構えていると?俺が生き残ったのは運が良かっただけだ。そこから得た俺なりの経験則を語っているに過ぎない。お前たちは自分の足で立って歩くための強さを求めているんだろう?俺の言う事を無批判に真似て強くなれるほど、この世界もお前たちのいた世界も甘くないはずだ」



 マリアは剣を持つことを嫌がったが、エルフの剣舞には興味を持った。


 魔法はラウルとアリーナから学ぶことになったが、いざという言う時自分の身を護れなければ静香の足手纏いになると言われ、剣舞も実戦に使えることを知り魔術杖スタッフでの戦い方を学ぶことになった。


 魔術杖スタッフは特定の魔法を行使できるような魔力が封印されているものが多く、魔剣と打ち合っても折れたりしない様な防護措置が施されている。


 アトゥームとホークウィンドはマリアに剣などの捌き方を主に教え、攻撃は最低限度のものを教えるにとどめた。


 魔法、特に防御魔法と治癒魔法にはマリアは高い適性を示した。


 同じ魔法でも攻撃に使われる魔法はマリアは習得したがらなかった。


 ラウルから「心臓を破裂させる魔法は程度を弱めれば心停止に陥った人の蘇生にも使える。毒と薬は紙一重だよ」と言われて攻撃魔法を覚えるには覚えたが、自分の意志で制御できない純粋な攻撃用の魔法を学ぶことははっきり嫌だと言った。


 対アンデッド、対デーモン用に攻撃魔法を学ぶのがぎりぎりの妥協点だった。


 ラウルはマリアの意志を尊重した。


 ラウルはマリアに静香の持たされたものと同じ意思疎通のペンダントとさらに魔法の指輪を静香とマリアに渡した。二人を精神感応で繋ぎ、遠くにいても互いの居場所を把握できるような魔法と、互いのオーラを見ることが出来るものだった。


 魔物は外見は瓜二つにできても、特徴的なオーラを放つ。


 オーラを見れればデーモンや人間に擬態するモンスターが変身していても見破れるからだ。



 ホークウィンドは静香とマリアの素手での戦いの師匠になった。


 普段は二人をモノにしようと追いかけているが、戦い方を教えるときは嘘のように真面目だった。


 そうでないときも多々有ったには有ったのだが。


 鎧無しで武器も無い時――徒手空拳の時の戦い方だ。


「いい、素手で戦うのは最後の手段だよ。武器として使えるものは全て――落ちている石や木の枝、土くれや水たまりの水も目潰しに使えるから――拾う間があればだけど、何でも武器として使うこと。それが出来ないときに素手で戦うんだ」


「素手で武器を持った相手と戦う時、特に複数の相手と戦う時は、武器を持ってても一緒だけど、まず相手の攻撃を食らわない、攻撃を捌くことを第一にして」


「防御が出来れば、攻撃は本能的に出るもので構わないから」 


「マリアちゃんは魔法を使えば良いけど、静香くんはそうはいかないから、出来れば最初に攻撃してきた相手を次の相手への「盾」として使うことを覚えて」


「囲まれた場合まず後ろから攻撃がくるものと思って。同時に攻撃されたらまず躱すこと」


 後ろへの注意の払い方、気配を察するやり方、体の捌き方、打撃、投げ技等々、二人、特にマリアが学ぶことは多かった。


 静香もマリアに護身術を教えるのにやぶさかではなかった。


 二人で組手や立ち合いを行って、互いの技量を高めていった。


 マリアも戦いながら呪文を唱えれるように、魔法の学び方を工夫した。


 接近戦で相手の攻撃を躱しながら呪文を唱える。


 相手をマヒさせたり、魔法の盾を作り出したり、相手を無力化しながら自分と静香を守ることに、マリアは次第に熟達していった。


 一人でいる所を狙って魔物が襲ってくる可能性は高い。


 静香の援護だけでなく、一人きりになった時でも戦えるようになることも大事な目的だった。


 ガルム帝国軍が到着する頃には静香だけでなくマリアもそれなりに戦える基礎固めはできたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る