澄川静香の場合 その1
マリア、マリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリアマリア――
貴女に逢いたい、逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい――
逢って抱きしめたい、抱きしめたい抱きしめたい抱きしめたい抱きしめたい――
神様の意地悪、意地悪、意地悪、意地悪――
そう何度も神への罵りとマリアへの思いを願いながら当年17歳の少女、
この世界に飛ばされてきてからもう四週間になる。
満月の光が高窓から強く差し込んでいた。
「この世界にようこそ、救国の乙女よ」
それがこの世界に来て初めて聞いた言葉だった。
最初は言葉が通じなかったのだが、金色の鎧を着た戦皇と名乗った男とその隣の白い鎧の男の言葉がその脇に控えた騎士の手で金属の台座に大きな宝石を埋め込まれたペンダントを掛けられた瞬間に伝わってきたのだ。
「余はエレオナアル=ド=エリトヘイム=イワース=アークヒル=エイリトラー=ユーディシウス=グランサール252世、五千年を超える歴史を誇る偉大なるグランサール皇国の252代目の戦皇だ」
「俺はショウ。ショウ=セトル=ライアン、グランサール皇国のそばの竜の王国ヴェンタドールの勇者セトルの末裔。異名“白の聖騎士”(ホワイトパラディン)と呼ばれている」
白い鎧の男がそう言った。
二人とも同じくらいの背丈――標準よりはかなり高く、エレオナアルが180センチから3センチ程高く、ショウはエレオナアルより更に2、3センチ高い――で、年の頃は二十代半ばといったところだ。
エレオナアルとショウの二人によると今グランサール皇国とその同盟国は危機に晒されているのだと言う。
エルフと呼ばれる妖精族の亜人――人類よりわずかに背が高く、ウサギのように長い耳を持った細身の種族――が、他の亜人族と共にグランサール皇国と長年敵対してきた混沌の帝国ガルムと手を結び侵略してきたのだと。
エルフたちは混沌の神の加護を受け、死神の騎士と呼ばれる黒い鎧の男と不老不死のエルフの女に率いられ皇国を蹂躙しようとしている。
「この刀をそなたに授けよう」
エレオナアルがそう言うと隣の騎士が両手に捧げた刀――まさしく日本刀だった――を静香に差し出した。
静香が刀を受け取ると騎士は下がった。
「この刀は、そなたにしか扱えない」
刀に選ばれた戦士のみがふるうことを許される魔を払う刀だとエレオナアルは言った。
――聖なる魔力を持ち、他の剣と打ち合っても刃こぼれ一つしない――ショウは付け足すように続けた。
静香は黒塗りの鞘から刀を抜いて刀身を見つめた。
確かに刃こぼれは一つも見つからなかった、銘は無い。
刀身は――まるで水に濡れているかの様な妖しい光を放っていた――
最上級の業物だわ、正宗に匹敵するか、もしかするとそれを上回るかも知れないと静香は思った。
日本にいた時に、日本刀は何本も見てきた。その静香の目でもこれほどのものはお目にかかったことは無い。
静香は剣道部の部長で有段者だった。
実家が剣道一家だったこともあり、幼少期から剣に親しみ、刀を観る機会も多かったのだ。
「皇国にはそなたの力が必要なのだ」とエレオナアル「引き受けてくれるな」
嫌とは言わせない口調だった。
それが静香の癇に障った。
――いきなり呼び寄せておいて何、その態度――
静香は二人を睨みつけた、何故かは分からないが、この二人には良い感じを抱けない。
「条件があるわ」静香は二人のいけ好かない目を見つめたまま凛とした声で言った。
「一つは私と一緒にこちらに飛ばされたはずの女の子、七瀬マリアを探すのに全力を尽くす事、もう一つはこの務めが終わったらすぐに私たちを元の世界に帰すこと」
「了承した」エレオナアルはわずかに気圧されたようだった「できる限りの事はしよう」
静香はショウが憎しみにも似た怒りに満ちた視線を向けてくるのを感じた。
無礼者を咎める目だ。
だが静香はひるまなかった。
「言っておくけど、私は誰にも忠誠は誓わない。私が忠誠を誓うのは全知全能の父なる神だけよ」静香はショウの視線を真っ向から受け止めてそう言い切った。
ショウは視線を逸らさなかった。
ナイフで切れそうなほど緊張した空気を、一陣の風が吹き去った。
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