第18話 カッコイイ大人

夜店の列の中。


 迷子を見送ったヨッサたち四人はハカセの母親の出店を探す事にした。


「角を曲がって一番奥にある店……」

「なんて名前の店?」

「マヨチャン焼きそば……」


 ヨッサはそう言って角を曲がっていった。店番のお婆さんの話では直ぐに分かると言っていたのだ。

 角を曲がると寺に続く参道の階段が見えた。それに続く小道には、カルメラ焼きにスーパーボールすくいなど、様々が出店が並んでいる。階段の所まで店を見ながら歩いてきた。だが、肝心のハカセの母親の焼きそば屋は無かった。


「それっぽい焼きそば屋は無いな……」

「店番しているのって、おじさんかお兄さんばっかしだね……」

「名前とか違うし……」

「……」


 四人とも困惑していた。すぐに見付けることが出来ると考えていたのだ。


「うーん……」

「この横道だって言ってたの?」

「言ってたと思う……」


 ヨッサはシドロモドロになってしまった。何しろハカセの母親の顔はオボロゲにしか覚えていないからだ。

 四人は、今度は自分たちが迷子になった気分になってしまった。


「ちゃんと話を聞いてたのかよ」


 バイソンが怒り出した。

 お婆さんと話をしていたのはヨッサ一人だったのだ。そのヨッサがあやふやな事ばかり言うので怒り出したのだった。


「ちゃ、ちゃんと…… 聞いたつもりだよ?」


 ヨッサはアタフタしてしまい最後の方は小声になってしまった。


「……」


 バイソンは憮然としたまま横を向いてしまっている。


「曲がる場所…… 間違えたんじゃない?」


 ガリガリが助け舟を出した。ヨッサは首を傾げてしまった。

 どこで間違えたのか検討が付かないようだ。


「そうだっ! こういう時は高い場所から見てみようよっ!」


 全体を見渡せそうな高い場所から見てみようとサボリが言った。

 そして、サッサと目の前にあった階段を登りだしてしまった。


「よしっ!」


バイソンも同じことを思ったのか、サボリに続いて駆けて登り始めた。


「……」

「く…… 階段走るのシンドイ……」


 ガリガリとヨッサも後を追うように登りだした。


「あっ、ちょっと待って待って……」


 途中でサボリがバイソンに抜かされていく。彼としては頂上に一番乗りをしたっかったらしい。


「よっしゃあー!」


 先陣を切ってバイソンが階段の上にたどり着いた。どうやら機嫌が直ったようだ。

 境内では盆踊りの準備がなされていた。

 他の三人も続いて登りきった。ガリガリとヨッサはは肩で息をしている。急な運動は苦手なのだ。


 登ってきた階段を振り返ると眼下に出店たちの灯りが連なって輝いていた。

 四人はそれを眺めている。


「あっこにも出店が有るみたいだね……」

「本当だっ!」

「……」


 ガリガリが指さした方を見ると明かりが繋がってるらしい横道がある。

 どうやら横道を一本曲がるのが早かったようだ。


「みんなごめん…… 向こうに行って見ようか……」


 やはり、曲がるところを間違えたのだ。そう思ったヨッサは全員に頭を下げて再び階段を降りだした。


「……」

「……」

「……」


 他の皆は無言で階段を降りていった。


「ヨッサ…… さっきは怒鳴ったりして悪かったな……」

「いや、ハッキリしない俺が悪かったんだからもう良いよ」


 バイソンが謝ってきた。悪いのはどちらかと言うと自分だと思っているヨッサも反対に誤り返した。

 二人でペコペコ頭を下げあっていた。


「おっ! こうして眺めると夜店の列が綺麗だよね!」


 空気を読んだサボリが話を変えようとしてきた。

 下界を見ると串の字状に出店が広がっていた


「まあ、自分の見た目が強面って奴だから、色々と誤解されやすいのは知っているんだ」

「……」


 ヨッサの横を歩きながらバイソンが話しかけてきた。ヨッサは黙って話を聞き続けた。


「変わり者だったし掴みどころも無いから、そういう所が人を遠ざけるんだろうな……」

「……」


 バイソンも色々と悩んでいるのだなとヨッサは思った。


「俺はカッコイイ大人になりたいんだ……」


 そんなバイソンが不意に言い出した。


「アイドルとか戦隊モノのヒーローとか?」


 サボリが尋ね返した。サボリのカッコイイはその辺が基準なのだろう。


「いや、そういう見た目の話じゃなくてさ……」


 バイソンは苦笑しながら話を続けた。


「前にバスに乘っていた時に、赤信号でバスが停車したのよ」

「うん」

「すると、バスの前にある横断歩道で、自転車で来たらしいお婆さんがバランスを崩して倒れたんだ」

「お婆さんは怪我した?」


 話を聞いていたヨッさが尋ねた。


「いや、結果的に言うと怪我はしてなかったんだけど……」


 バイソンはバスに乗っていた男の人が、運転手にお願いして前扉を開けて助けに行ったと説明した。

 さらにもう一人の男の人も助けに行って、二人でお婆さんを歩道まで誘導してあげたのだそうだ。

 二人はそのままバスに戻って来て、『バスを遅らせてしまい申し訳ない』と乗客の皆に謝ってから席に付いたのだそうだ。


「へぇー、友人同士で優しいって凄いよね」

「そうだね」

「偉いよね」


 三人は口々に褒めていた。他人に無関心な大人しか知らない彼らにとっては気になる部分であるらしい。


「でも、二人は終点に着くとお互いに軽く会釈して、別の方角に立ち去ってたよ。 友達でも何でもなくて赤の他人だったみたい」

「えっ、それって……」

「へぇ……」

「……」


 バイソンの話を聞いて三人共ビックリしたようだ。


「それ見てさ…… さりげなく人助けできる大人たちってカッコイイなって思ったんだ」


 バイソンはそう言ってニッコリと笑った。

 困ってる人を見ても、いざとなると身体が動かないのはよくある事だ。しかし、そこから一歩踏み出せるかどうかで、カッコイイ大人になるのだとバイソンは考えているようだ。


「僕は直ぐには反応できないで見ているだけになっちゃうだろうな……」

「うん。 そういう大人ってカッコイイよね」

「……」

(自分はいざとなった時に最初の一歩を踏み出せるんだろうか……)


 それが出来ないと、実態の伴わない能書きと、屁みたいな理屈だけは一人前のみっともない大人に成ってしまうのだ。


(カッコイイ大人になるにはどうしたら良いんだろうか……)


 自分も心優しい大人になれるのかと漠然と考えていた。皆も考えることは同じなのか黙ってしまった。

 四人は目的の路地を目指して人混みの中を歩いていった。


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