第17話 夜店の裸電球

夜店の列。


 夜店がずらりと並ぶ風景は郷愁を覚えるのは人間の本能だろうか。

 ヨッサは家族で他の祭りに行った日のことを思い出していた。

 人混みに紛れて仕舞わないように弟の手を必死になって握っていた。それでも、ヨッサの目は夜店に並んでる玩具を見るのに夢中だった。


 夜店の中を照らす裸電球が眩しい。しかし、大人になると目線が変わるのか、夜店の軒先に並ぶ電球が眩しいとは思わないものだ。

 浴衣を着た女性の方が眩しく見えるようになるのは少しだけ先の話だ。


(うーん…… 家族で来た方が良かったのか?)


 ヨッさがそんな事を思っていると、夜店の間を泣きながら歩いている子供を見かけた。


(あれ…… 迷子かな??)


 見知った顔が見えない時の不安感はヨッサにも覚えがある。子供は一つのことに夢中になると周りが見えなくなるものだ。そして、後先を考えずに走り出して家族とはぐれてしまう。


 ヨッサも幼稚園の頃には良く迷子になったものだった。その時は弟が生まれる前だったので、母親の手を独占することが出来ていた。当たり前だと思っていたので、母の手より目に映るモノの方が興味を惹かれてしまうものだ。


 ある時、音楽教室に連れて行かれたヨッサは、犬が何かを咥えて走っているのを目撃した。何を咥えていたのかは分からないが咄嗟に追いかけてしまったのだ。


 そして、追いつけない程の距離を離されて、ふと気が付くと母が居ないことに気が付いた。瞬く間にパニックになってしまったヨッサは、もと来た道を戻らずに更に闇雲に走り出してしまうという事をしてしまった。


 とうとう、走り疲れて立ち止まった時には、見知らぬ商店街の中だった。そして母を探して歩き回ることになってしまった。

 周りは知らない大人ばかりで怖かったのを覚えていた。


 本格的に迷子になってしまったヨッサは、通りがかりのおばさんに声を掛けられるまで泣き通しだったようだ。

 最終的には交番に連れて行ってもらい、母親と再開できたが過呼吸になりそうなぐらいに泣いてしまった。


 そんな事を思い出したヨッサは声を掛けて見ることにした。もちろん、怖がらせないように子供の目線にしゃがんでからだ。


「こんばんは~、どうしたの?」


 ヨッさが声を掛けると安心したのか、子供の鳴き声が大きくなってしまった。


「……」


 予想してたとは言えヨッサは困惑してしまう。誰かを慰めるのは苦手な方なのだ。自分の弟ですら泣き止ますのが下手なのだ。

 だが、嗚咽の間から「カーチャン」「トーチャン」の言葉聞き取れる。


「逸れたの?」


 サボリが聞くと子供はベソベソ泣きながら頷いた。一通り泣くと落ち着いたみたいだ。

 聞くまでも無く迷子なのだろう。四人は顔を見合わせた。


「迷子を預かってくれる所ってどこだろ?」

「う~ん、見かけないけど……」

「……」


 四人は初めてきた場所なので勝手が分からない。全員で周りを見回しても分からなかった。


「弱ったね……」

「……」

「……」

「……」


 不安に駆られた男の子は再び泣き出しそうな顔になった。

 ヨッサたちは困ってしまった。


「んーーー、よしっ! 高い所から探そうかっ!」


 バイソンはそういうと迷子の男の子を肩車をしてあげた。

 グスグスしてる子供を見ていられなかったのであろう。


「これならお母さん探しやすいだろ?」


 バイソンはそう男の子に聞いてみた。


「うんっ!」


 迷子の男の子は何故だか嬉しそうだった。その証拠にアレだけ泣いていたのに笑っているのだ。


 四人は男の親を探すために夜店の通り道を歩いてみた。

 バイソンは男の子を肩車したまま、駆けてみたり飛び跳ねてみたりしている。男の子はバイソンの肩の上でキャッキャッとはしゃいでいた。


(バイソンは子供をあやすのが得意なんだな……)


 ヨッサはバイソンの以外な面を見つけた思いだった。

 そんな事を考えていると男の子が通りの中程を指さした。


「あっ! とーちゃんっ!」


 男の子の指さした先に浴衣姿の男の人が居た。顔が赤くなっている。走り回っていたのかも知れない。


「あっ、タダシっ!」


 子供の声に父親は直ぐに反応した。そして行き交う人々の間を縫うように近づいてきた。


「どうしてお前は一人で走り出すんだ……」


 どうやら迷子の男の子は何かに気を取られて父親の元を離れたようだ。


「君たちありがとうっ!」


 父親は安心したのかヨッサたちに何度も頭を下げていた。余程心配したのだなヨッサは考えた。


「じゃあ、今度はお父さんにバトンタッチだ」


 バイソンはそう言うと男の子を抱えて父親の肩に載せてあげた。男の子ははしゃいでいた。嬉しかったのだろう。


「そうだっ! お礼にタコ焼きでも買ってあげようっ!」


 迷子を見付けることを出来た父親は大喜びだった。

 父親はお礼に何か買ってくれると言っったが全員が固辞した。


「いえいえ、お礼は要りませんから……」


 お礼目当てでは無かったので当然であろう。それにタコ焼きは食べたばかりだ。


「タコマサってタコ焼き屋さんが親切で美味しかったですよ!」


 サボリは怖い顔のおじさんのタコ焼き屋さんを紹介してあげた。奢って貰ったのでせめてものお礼代わりだ。

 父親はお礼を言った後に男の子を肩車したまま去っていった。

 男の子は見えなくなるまで手を振っていた。


「……肩車って良いもんなんだなあ」


 仲良く去っていく親子を見ながらガリガリが独り言を洩らした。サボリは無言で見つめている。

 そんな二人をヨッサは黙って見つめていた。


「ん? やってやろうか??」


 すると、その独り言を聞いたバイソンが悪戯っぽくガリガリに聞いてみた。


「い、いや。 遠慮しとく……」

 

 ガリガリは照れくさそうに笑っていった。だが、ちょっとだけ心動かされたのは内緒だ。



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