第15話 商店街

バス亭。


「ヨッサは葉書の住所がどこだか分かるの?」

「いいや? なんで?」


 バス停を降りた時にバイソンが聞いてきた。ハカセ宛に届いた暑中見舞いの住所に覚えが無いようだ。


「じゃあ、俺が通う道場に行って、大人の人に聞いてみようよ」

「うん、頼みます……」


 実はヨッサは行けば何とかなると考えていたらしかった。バイソンの申し出は嬉しかったのだ。


「ああ、それ良いね」

「……」


 サボリとガリガリはヨッサと同じくバイソンに付いて行くらしい。もっとも、彼らは訪ねて行く相手の名前を知らなかったのもある。


 四人はバイソンが通う道場に向かった。

 ガリガリが無口になった。盛んにキョロキョロと辺りを見回している。彼も見知らぬ土地で不安になっているらしい。

 サボりはいつものように楽しげに見回していた。


「バイソンはいつも一人で通うの?」

「小さい時は母さんが送ってくれたよ。 でも、今は一人で来てるな……」


 そんな話をしているとバイソンの通う道場に到着した。民家二軒分くらいの幅がある平屋の建物だ。

 一階が道場に成っていて奥に事務所があるらしい。


「ちょっと待ってて……」

 バイソンはそう言い残して道場の中に入っていく。中を覗くと練習生らしい人がまばらに居るだけだった。


(祭りに出かける人が多いんだろうか……)


 そんな事をヨッサは考えていた。

 しばらく待っていると、バイソンは白い紙を片手に現れた。


「地図を書いてもらった」


 道場の中の人が住所の近所に住んでいるのだ。それで分かったらしい。

 バイソンは地図をヨッサに渡した。見てみると線が引いて有るだけの簡単な物だった。

でも、バイソンが大体の場所を聞いてきたので方角は分かるそうだ。


 四人はハカセに来た葉書の住所と地図を頼りに探し歩いた。

 すると小さめの商店街に着いた。店が十軒ぐらいまばらに並んでる所だ。

 その、小さめの商店街を四人で歩いてると、シャッターの降りてる美容院の前を通り過ぎた。


「そう言えば山の中に人形がたくさん捨てられてた場所が在ってさ」


 不意にヨッサがしゃべりだした。美容院のショーウィンドウを見て、何かを思い出したらしい。


「その内の一つを持って帰ってきたんだよ」


 山と言っても住宅街の中にポツンとある丘のようなものだ。地主が開発業者と揉めているらしく、開発が進んでないと両親が話していたのをヨッサは聞いたことがある。

 積極的に管理されていないので不法投棄が絶えない場所だ。危ないので近づか無いように学校でも注意されていた。

 しかし、大人が危ないと言う事にかえって冒険心をくすぐられてしまうのが男子小学生である。

 ヨッサとハカセは『お宝探し』と称して探検に行っていた。


「どんな奴?」

「金髪の青い目した奴」

「マネキン?」

「いや、首だけだった」


 どうやらヨッサが拾ったのは美容院などに置いてある練習用のマネキンの首らしい。


「なんで、そんなモン拾って来るんだよ」


 バイソンが笑いながら聞いてきた。


「改造して自転車に着けるつもりだったんよ」

「勝手に拾ってきて怒られなかった?」


 サボリ笑いながら聞いてきた。ヨッサの感覚は独特なものがあるなとも思っているようだ。


「うん、叱られるのは分かってるから押入れに隠しておいたんだよ」

「押入れ?」

「うん。部屋に置いておくと母さんにゴミは捨てろって怒られるからさ」


 それはそうだろう。男子小学生にとって宝物でも、親からすれば大概ガラクタであるからだ。

 しかも、飽きると置いたままにするので、注意していないとゴミだらけに成ってしまうのだ。


「ところが、母さんが掃除の時に押入れを開けたらしくてね」

「長い髪の毛が天井に引っかかった状態で落ちてきたらしいんだ」

「それって……」

「ああ、生首が宙に浮いてるような状態に見えたと思うよ」


 ヨッサ以外はギャハハハと笑いだした。目の前に光景が浮かんでくるようだったからだ。


「近所のおばさんの話だと昼間に絹を引き裂くような叫び声が聞こえたって言ってた」

「それも目茶目茶叱られた…… 業とやってるわけじゃないんだけどなあ」

「余計たちが悪いじゃん」


 ガリガリはヨッサの母親に憐憫の情を覚えた。


「でもって、捨てる振りして物置にしまっておいて、後で人形を改造したんよ」

「どういう風に?」


 サボリが目に溜まった涙を拭きながら尋ねる。


「目のところにライトを付けて光るようにしたんだ」

「ちょ……おま……」

「わはははは」

「プーーーッ、クスクス」


 バイソン・サボリ・ガリガリの三人は、目を光らせた人形が走り回る様を思い浮かべて笑いだした。

 彼の発想は中々ユニークだ。


「次の日に自転車のハンドルの所に括り付けて、夕方ぐらいに颯爽と走っていたら、向かいに住んでるおばさんが卒倒しちまった」

「それで、またガミガミ言われちまったよ」

「あはははは」

「わはははは」

「……」


 ヨッサは口を尖らせて憤っていた。実際は救急車を呼んだり、両親に連れられて謝罪に行ったりと大事になったらしい。


「普通、カッコイイと思うじゃん?」

「いやいやいや……」

「俺はカッコイイと思うよー」

「……」


 ヨッさが皆に同意を求めたがサボリ以外の反応は薄かった。


「いや、それは怖いよ。 傍から見ると目が光ってる生首が走ってるようなもんじゃん」

「あはははは」

「ヨッサって……」


 ヨッサのカッコイイは人とは違うレベルに在るのだなとガリガリは思った。



 そんな事を話していると目的の場所に到着した。


「この地図だと…… あの店だと思う……」

「ああ、店の名前が一緒じゃん」

「俺が一人で入るよ…… 人数が多いと迷惑かかるじゃん?」


 訪ねていった先は小さな雑貨屋さんだった。


「すいません。 江崎純子さんはご在宅でしょうか?」


 ひとりで店に入りヨッサが尋ねた。

 店には店番をしていたおばあちゃんが居るだけで、他には誰もいないようだった。

 おばあちゃんは赤ん坊を背負って留守番をしている。だが、ヨッサはそのお婆さんと何か話し込んでいる。

 いきなり小学生がドヤドヤと入ってきたら不審に思われるのも無理は無いだろう。


「……町内会の当番でお祭りの出店に行ってるってさ」


 話を終えたヨッさが店先に出てきた。目的のハカセの母親は不在だったのだ。

 四人は店先から中のお婆さんにお礼を言って通りに出た。


「じゃあ、祭り会場に向うか……」


 四人はよんまんじを目指して歩き出した。


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