第13話 バス停

バス停。


 サボリの放浪癖が自分の居場所探しだと分かった。だが、それに対してどう慰めれば良いのか他の三人は分からなかった。

 小学生男子に他人の心を推し量れと言っても無理な相談なのだろう。それが出来るようになるのは、まだまだ先の話だ。

 結局、四人は黙って歩くしか無かった。


(俺だったら寂しくて泣き続けてしまうだろうな……)


 道すがらヨッサはそう考えた。サボリも同じだったに違いないが、彼はいつも屈託なく笑っている。


(笑うことで寂しさを乗り越えることが出来たんだろうか?)


 きっとサボリは自分の強さを求めているのかも知れないとヨッサは思った。


(それとも他の方法を探すために放浪してるか……)


 他の道と言っても小学生男子に探る術などは無い。大人なら自分で道を選べるが、自分たちでは道を用意してもらわないとどうにもならない。ただ、笑っているだけだ。


(ひょっとしたら、自分の家族が生きているのかもと探しているのかも知れないな……)


 そう思った時にサボリの切ない放浪に胸が締め付けられる思いだった。


「月並な言い方しか出来ないけど、時間薬だよ」


 バイソンが言ってきた。

 ヨッサが意味が分からずに不思議そうな顔をする。


「時が癒やしてくれるって奴さ……」


 そう、バイソンが言葉を付け足してきた。本人が納得出来るまでは悩みの解決方法は分からないのであろう。


「納得出来る自分を見付けるまで探し回るしかないって事か……」


 ガリガリは自分もそうなのだろうかと考え込んでしまった。



 四人でトボトボ歩いている内にバス停に到着した。


「まだ、少し時間があるみたいだな……」


 バイソンが時刻表を見ながら言った。目当てのバスが来るまで少し有るようだ。


「そう言えば皆はアニメとか見るの?」


 ヨッサは話題を変えようかと違う話を振ってみた。


「見る見る! と言っても動画サイトの奴しか見れないけどさ」


 サボリが早速食いついてきた。彼も暗い話は苦手なようだ。


「僕は見放題サービスに加入してるんですが、アメリカのドラマ専門なんです」


 ガリガリはスマートフォンを使って動画を楽しむタイプらしい。自宅のテレビだと一人っきりなので嫌なのだそうだ。

 スマートフォンならベッドの布団に潜り込んで動画の世界に浸れるので集中出来るとも言っていた。


「アメリカのドラマってメリハリが効いてて良いよな」


 ヨッサは銃や車使っての派手なアクション物が好きなのだ。日本のドラマは役者がボソボソ言ってるだけなので嫌いなようだ。


「漫画は読むけどアニメはあんまし見ないな…… 自分のペースで見られないじゃん?」


 我が道を行くタイプのバイソンはそう言っていた。もっとも長い時間ジッとしていられない性分なせいかも知れない。

 良く映画館などで寝てしまうおじさんに通じるものが有るなとヨッサは思った。


「僕は良く見る方なのか…… 『全力少女クーカ』の声優さんが好きでさ」

「ああ、あのキャラクターの声は可愛いよね」


 ヨッサが話し始めたアニメは、サボリも見ているアニメだったようだ。

 不思議な国に迷い込んだ少女が魔法を習得して自分の世界に帰る旅をするアニメだ。

 ありきたりな話だが、強くなるために試練に臨まなければならないのが好きなポイントだ。そして、試練を乗り越えるのに出会った敵を友人にしてしまうところも気に入っていた。


「それで、その声優さんが駅前のレンタル屋に来ると言うから見に行ったんよ」

「へぇー、DVDの販促キャンペーンだったのかな?」

「そうかもしれないね」

「どうだった?」

「キャラクターの声とは違って、普通のおばさんが来ててガッカリ……」


 そうは言ってヨッサは笑いだしてしまった。もっとも、ヨッサにとっては好きなアニメなので、今も変わらずに見ては居る。


「わはははは」

「あるある、ふはははは」

「クスクス」


 他の三人もヨッサと一緒になって笑い出してしまった。

 まあ、キャラクターの声担当はキャラクターそのものみたいな感覚がヨッサにはあったのだ。

 だから、どこにでもいそうな普通のおばさんだったのが、失礼ながらちょっとショックを受けたらしい。


「気持ちは凄くわかるけど、勝手に想像して勝手に落胆されてしまう声優さんも災難だよなー」


 ガリガリが笑いながらそう言った。

 彼にも何か思い当たることが有るのかも知れない。ヨッサのガッカリ感にしきりに頷いていた。


「演じるという意味では成功なんじゃない? 声優さんにして見れば役者冥利に尽きるかも知れないよね」


 笑いすぎたのかバイソンは目の涙を拭いながら話した。

 サボリはまだ腹を抱えて笑っていた。サボリが明るくなったのでヨシとしようとヨッサは思っていた。


 そんな事を話しているとバスがやってくるのが見えていた。



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