第12話 ここにいる

バス停に向かう道。


 四人で道を占拠するように横に並んで歩いていた。


「サボリは何でいつも街を徘徊してるん?」

「俺も家に居てもつまんないからね……」

「ふーん、サボリの親も無関心な方なの?」


 ガリガリが尋ねた。良く授業をサボって学校の中を彷徨いているのを知っているからだ。


「いや、今の両親は俺の本当の母さんの妹なんだ」

「じゃあ、叔母さんに当たるのか……」

「そうなるね」

「本当のお母さんは交通事故か何かで死んじゃったの?」

「いいや、俺だけを残して一家心中さ……」


 サボリがポツリともらした。


「……」

「……」

「……」


 ヨッサ、ガリガリ、バイソン、みんな絶句してしまった。


「なんで俺だけ残していったのか全然分からない……」


 サボリは自分以外の家族は無理心中したのだと告白してきた。だから、一学期の半端な時期に転校してきたのだ。

 きっと担任も事情を知っているのだろう。サボリが授業をサボっても何も言われない原因が分かった気がした。


「弟が小さい時に怪我させてしまった事があってさ……」


 みんなが黙っているとサボりが話を続け始めた。


「それをずっと前から謝りたかったんだけど死んじまった……」


 弟の存在を軽く見ていた訳ではないが、何故か自分の方が偉いという兄特有の拘りが有ったのかも知れない。


「もう、誰も俺を許してくれない……」


 つい謝りそびれてしまったのだ。上手な謝り方を覚える年頃なのだが、その時は無理だったのだろう。


「それが堪らなく悲しい……」


 今日の出来事を聞いてくれる人がいない。笑い合える人がいない。それは愛されていない証拠のように感じてしまうのかも知れないのだ。


「今の家の人に苛められるの?」

「みんなに無視されるとか……」


 ヨッサとガリガリが尋ねた。


「いいや、みんな良くしてくれるよ」

「でもさ……」

「ん?」

「夕飯後に叔母さん家族が何か会話している時に、俺が入っていくとピタリと会話が止まってしまうのんだ」

「ああ、何となく気まずい雰囲気になる事があるよねー」


 親戚とは言え異分子の自分が混ざる事に、居心地の悪さを覚えるものだ。

 そして、その雰囲気を皆が敏感に感じてしまって、会話が止まってすまうのだろう。


「それはきっと家族団らんの光景を見せて、前の家族を思い出させないように気を使っているんだろうね……」


 バイソンが咄嗟にそういった。本当にそうなのかは分からないが、何か慰めになるような言葉が思いつかなかったようだ。


「うん、そうだと思う。 分かっているから気を使わせたくないんだ……」


 サボリの養い親もどう扱って良いのか分からないのかも知れない。

 それで居てはいけないような気がして夜の街を徘徊するようになったらしい。


「そうだな、気を使ってくれているのが分かるだけに辛いよね……」


 バイソンが言ったことにサボリも頷いた。叔母家族の思いやりを彼は分かっていたのだろう。


「手探りでもどうにか馴染むしかないよね」


 ヨッサが言った。


「俺はお互いを思う気持ちが家族なんじゃね?って考えてるから、サボリの所もきっと家族になれると思うよ」

「うん……」


 バイソンが言ったことにサボリも頷いた。叔母家族の思いやりを彼は分かっていたのだろう。サボリは返事すると黙ってしまった。

 普段のひょうきんな明るさからは想像も出来ない様子だった。


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