増結9号車(番外編)『鉄道博士な怜と雪子』

日本縦断の旅を終えた怜は稚内から雪子と共に岡山まで行きそこからそれぞれ香川と愛媛に帰りお盆休みを過ごすのだった。

 お盆休みを終えた怜は、再び京都に戻り夏休み中はバイトをしていたのだった。

 そして、今は大学の学食堂で昼食をとっていた。

「あれ、怜」

 食事をしていた怜は声のした方へ顔を上げ

「ぁで、ゆぎこ、かえっでだのが」

 と食べながら返事をした。

「もう、ちゃんと飲み込んでから喋りなさいよ」

 と雪子は軽くお説教をして怜の向かい側に座る。

「怜は夏休み中、何してるの?」

「基本的にバイトだな」

「ふーん」

 と食べながら怜の話を聞いていた。

「雪子は?」

「私は、集中講義受けてる」

「そっか」

『なんか、いつもと変わってないような』

 食事を終えた二人が学食を後にし、怜はバイトへ、雪子は講義が行われる教室に向かうのだった。


 そして講義が行われる教室の机に肘をついてボーとしていた雪子は

「そこのお嬢さん、お悩みのようですな」

 と隣に座っている女子学生が雪子に話しかけて来た

「うん、まぁね」

 彼女の名前は成田 春香(なりた はるか)、雪子と同じ学部の友達だった。

 雪子は春香に悩みを打ち明けるのだった。

「なるほど、その怜くんと恋人関係にはなったものの、付き合う前と特に変わった気がしないと」

 雪子は無言でこくりと頷く。

「だったらさぁ」

 と春香は雪子に提案を持ちかけるのだった。


 一方の怜はバイトを終えて

「お疲れ様でした」

 と先輩にあいさつをして仕事場を後にするのだった。

 そしてスマホを開き通知を確認していると一件のLINEが来ていた。

『あのさぁ、怜、今度の日曜空いてる?』

 雪子(マリンライナー)からだった。

『おぉ、空いてるけど』

 と怜は送信する。

 その後は数秒で既読が着き

『じゃぁ、その日…』

 とすぐに返事が返って来た。


 そして日曜日

「おはよう、怜」

「おぉ、おはよう」

 いつも学校帰りに行き別れる橋のところで怜は雪子を待っていた。

「待った?」

「いや、今来たところ」

 そのセリフを聞いて

『おぉ、なんかデートっぽいセリフ』

 と思った雪子だった。

「で、どこ行こうか」

 と完全にプランをなる投げする雪子に対して

「うーん、そうだなとりあえず、京都駅の方に行ってみるか」

 と怜は提案した。

「うん、行こう」

 と雪子は駅に行こうという言葉に喜んで反応するのだった。

 そしてしばらく歩き、地下鉄松ヶ崎に続く階段を降りて改札を通りホームに向かうのだった。

『間も無く、1番乗り場に各駅停車、新田辺行きが参ります。危険ですから黄色い線の内側までお下がりください』

 電車が警笛を鳴らしホームに進入してくる。

『一緒にいることが大事、とりあえずデートにでも誘ってみたら?』

 と春香にアドバイスされた雪子は言われた通り、怜をデートに誘い、今に至るのであった。

 やって来たのは赤い電車だった。

「やった」

「えっ、何が」

 急に声を出した雪子に主語を聞く怜だった。

「あっ、うんうん何でもない」

 やって来た車両は近鉄3200系という電車だった。

 この電車はGTO-VVVFインバータというモーターを搭載しており加速音が特徴的なのだ。

 と言いたかった雪子だったが、今日はデートということでマニアックな鉄道の話は控えようと決めたのだった。

 そして京都駅で下車した二人は、怜の提案でイオンモール京都に向かうのだった。

 ベタではあると思った怜だったが、映画館のある5階に行くのだった。

「どれにするかなぁ」

『ここはあえて恋愛ものだろうか、いや可愛い系か』

 考えてみれば鉄道以外に雪子が喜びそうなものを怜は知らなかった。

 とポスターを眺めながら見る映画を選んでいた。

 結果、今流行りのアニメ映画を見ることにした。

 そして、映画を見終えた怜と雪子は感想を話し合っていた。

「結構面白かったな」

「そうね、でもあれに出て来た新幹線の座席配置が逆だったのがちょっとね」

「えっ、そうなのか?」

「そう、下りの東海道新幹線の座席は進行方向に向かって左が3列で右が2列席が並んでるの」

「そうか、全然気づかなかったなぁ」

「あとは…」

 と次々と電車が来る山手線のように喋り続ける雪子は口に非常ブレーキをかける。

 その後、昼食を取るため二人は四階のフードコートに向かう途中、雪子はふと立ち止まり、あるものに目が惹かれるのだった。

「どうしたんだ?」

 と立ち止まった怜は雪子に声をかける。

「うんん、なんでもない」

 雪子の視線の先には鉄道カフェがあった。

 鉄道模型を見ながら食事ができる、鉄道ファンにとっては食事をするなら是非とも行きたいと思える場所だった。

 しかしそれではサークル仲間の頃と何も変わっていないと思い雪子は遠慮して普通のフードコートで食事をしたのだった。

 その後はゲーセンや雑貨屋を回って時間を潰し、外に出ると夕方になっていた。

「今日は楽しかったな」

 と怜は雪子にいう

「えっ、うん、そうだね」

 と雪子はぎこちない返事で言った。

 そしてしばらく歩いていると

「なぁ、雪子」

 と怜は口を開き

「うん?」

 と雪子は反応した。

「もう一箇所、行きたいところがあるんだけど」

「うん?」

 突然言いだして来た怜の言葉に半信半疑で雪子が連れてこられた場所は、

 京都駅駅ビルの階段を途中まで登ったところにあった。

 駅ビルの大きな階段のところは人通りが多かったが、六階についたあたりで左側に曲がり、進んで行った。

 気がつくと人通りががくんと減っていた。

「ここって」

 怜に連れられた先は広い通路のようなところで目の前には大きなガラスの壁があった。

 そこから外を覗き込んで見ると、

「すごい、どうして怜がこんな場所知ってるの?」

「前に京都駅で迷って、たまたま見つけたんだよ」

 その先には京都駅のホームと線路がずらりと並んでいた。

 手前には在来線、奥には新幹線、さらには近鉄のホームを見ることができた。

「なぁ、やっぱりお互いの好きなことやった方がいいんじゃないか?」

「えぇ?」

 怜の言ったことを雪子はすぐに理解できなかった。

「俺、まだ鉄道のことは知らないことばかりだけどさ」

「俺は…、その雪子が鉄道に関わって生き生きしてるところを見るのが好き、なんだよ」

 怜は雪子から視線を逸らしって言った。

 その後は数秒間お互い無言になった。

「嫌じゃないん?」

 と雪子は口を開く。

「何が?」

 怜は主語を聞き返した。

「こんな鉄道オタクでマニアックなことばっかり話すん、嫌じゃないん?」

 雪子は胸元に手を当てて不安な表情で言う。

 そして怜は口を開く。

「雪子って鉄道博士みたいだよな、なぁ、俺まだ鉄道のことをよく知らないからさ、教えてくれよ、俺に雪子の鉄道の知識を」

 その瞬間、雪子の脳内に子供の頃の記憶が蘇った。

 

 あれはお互いまだ5歳ぐらいの頃、二人がプラレールで遊んでいたときのことだった。

『ねぇ、怜くん、この電車なんていうの?』

 と雪子はプラレールの車両を手に取って怜に尋ねる。

『それは、新幹線の300系のぞみ』

『じゃぁ、これは?』

 今度は別の車両を手に取って怜に見せる。

『こっちは500系のぞみ』

 と丁寧に雪子に教えた。

『怜くん、まるで鉄道博士だね。ねぇ、もっと色々教えて』

『おぉ、いいぜ』

 と二人で楽しくプラレールで遊んでいた。


 そんな日々の記憶を現在が重なり感情を抑えきれなくなった雪子は、

「うん…いいよ」

 と目をこすりながら言った。


 その帰り、雪子は今日見た映画の鉄道の部分の描写に対して厳しくツッコミを入れていた。

 にわか鉄道好きの怜は「そうなのか」と相槌を打つので精一杯だった。

 ただ、昼間の鉄道トークを我慢しながら話していた雪子とは裏腹に元気よく話していた。

『俺は鉄道のことはそれほど詳しくない。雪子の話もたまにわからないことがあるが、それも楽しい』

 と思いながら雪子の鳴り止まない鉄道トークを聞いていた。

『俺はそんな鉄道について生き生きと話してくれる雪子が好きなんだ』

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