エピローグ『ようこそ鉄道研究会へ』

 日本縦断を終えた怜は、お盆期間を実家で過ごし、残りの期間は下宿の近くの店でアルバイトをしたりと、鉄道には深く触れない平凡な夏休みを過ごした。

 それから九月下旬、後期が始まり、十一月からは文化祭が始まる。

 鉄道研究会ではNゲージのジオラマ走行会や鉄道写真の展示などを行い好評だった。

 それからはあっという間に後期が過ぎて、春休みを終えると、怜たちは二回生になった。

 そして、今年から入学してきた新入生を迎えるべく、各サークルや部活動はブースで新入生たちを勧誘していた。

「こんにちは」

 鉄道研究会のブースを一人の女子学生が訪ねてきた。

「梓ちゃん、この学校に来てたの?」

 雪子は突然訪ねて来た梓に驚いていた。

「はい、雪子さんをびっくりさせたくてここの大学を受験したことは内緒にしてたんです」

「そうなんだ、いらっしゃい梓ちゃん」

「それだったら、梓にも鉄道研究会恒例のあだ名をつけないとな」

 ブース奥のカーテン向こうからシロクニもやって来た。

「もう、気がはやいですよシロクニ先輩。それにあだ名を決めるのは部長の役割ですよ」

「そうですよ、それにまだ入部の手続きもしてないですし」

 雪子もといマリンライナーと美音理もといいしづちはシロクニにツッコミを入れる。

「そうだなぁ、俺が蒸気機関車のC62(シロクニ)だから…。C57(シゴナナ)なんてどうだ?」

 シロクニは二人の言葉に全く聞く耳を持たず話を進めた。

「話聞いてるんですか?」

 マリンライナーは少し怒り気味みにシロクニに言う。

「まぁまぁ、どうせつけるあだ名なんだし、今考えるだけならいいと思うよ」

 ひかりがシロクニの肩を持って会話に乱入した。

「そうだな、それにしてもシゴナナとは可愛い名だな。私なんて快速急行なんておかしな名前だしな」

 快速急行も横から話に加わる。

「そうですか?、快速急行先輩も鉄道らしくていい名前じゃないですか」

「えっ、」

 さっきまでのクールな風格が崩れた快速急行は

「そっ、そうだろうか、うんシゴナナ。いい名前だな。そうだろ、部長」

 と逃げるように部長に話を振った。

 ちなみに快速急行は11月の文化祭が終わると同時に部長の席を退いた。

 そして今の部長は…

「えぇ、ちょっと待ってください、えっとそれで、シゴナナというのは?」

 そして、怜こと鉄道研究会の現部長、しおかぜがスマホを片手にググりながらブースの奥の方から出て来た。

 そう、怜は部長になった。

 なぜなら、怜は夏休みに青春18きっぷで日本縦断をしたことから、鉄道研究会の中では偉業を成し遂げたとされ、そんなノリで部長になった。

 どうやらこのサークルは鉄道関係で何かすごいことをすると、部長の地位に立てるらしい。

 ちなみに快速急行は高校の卒業旅行で、最長片道きっぷの旅をしたらしい。

 ひかりは三回生で副部長を今年度も継続した。

「えっと、実際の車両のことはよくわかりませんが、シゴナナっていう名前は可愛くていいですね」

 怜の可愛いという言葉に反応した梓は顔を赤くしてボーとしていた。

「梓ちゃん、大丈夫?」

 とマリンライナーは声をかけると

「あっ、いえ、シゴナナって名前いいなーと思って」

 梓は我にかえって苦し紛れな返事をした。

「えっと、でも、あだ名は鉄道研究会の新入生歓迎会で発表するから」

 怜はその場の雰囲気で先駆けてあだ名をつけてしまったが正式な手順を教える。

「はい、早く入部したいです。あっそれと、部活見学していっていいですか」

 梓もといシゴナナは水を得た魚のように喜んで返事をした。

「もちろん、では梓さんいや、シゴナナ」

 怜の言葉に続いて、全員は口を揃えて言う。

「ようこそ鉄道研究会へ」

(終)

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