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「なるほど、そんなことに」
久々に我が家にやってきた、武藤五段。元祖プロのネタ将で、ネタ将のプロだ。1対1の研究会を終えた後、先日の話になった。美鉾も加えて、三人でおやつを食べながら。
「不思議なものです」
「ロコロさん……記憶にあるよ。対局姿を見たことがある」
僕は全く記憶がないのに。武藤さんは細かいことによく気が付く。僕は鈍感だ。
「幼いころ別れた憧れの人を、ネット上で発見。ネタ将とポエ将。これは完全に運命ですね!」
美鉾はなぜか舞い上がっている。
「運命かなあ」
「運命です! この運命を今すぐ詩にしたいぐらいです」
「だったらどうする、加島君。このままだと、勝ち目ないかもねえ」
「誰にですか」
「ロコロさんに」
「さすがに僕の方が強いでしょう」
言っても奨励会三段である。将棋で負けるわけにもいかないし、そもそも対戦する機会も理由もないはずだ。
「兄様、危機感がなさすぎます」
「本当だなあ」
なぜか冷たい視線を向けられる僕。わからない、本当にわからない。
<私も、路線バスの旅しようかなあ>
「あ、福田さんの。ほらー、こうなるって」
「まあ、あの動画楽しいですもんね」
「兄様、一度負けましょう。仕方ないです」
福田さんはおそらく、僕のことを嫌っている。
彼女の恩人であるお兄ちゃん、霞通ロコロは、僕に負けて将棋をやめた。僕に公式戦で勝つことを目標に、恨みでもって将棋を頑張ってきた。そして僕がネタ将だと勘違いして、ネタ将になった。
彼女には確かにオーラがある。だから僕なんかを目標にせずに、もっと上を目指すようになれば。そう考えれば、ロコロとの再会は、きっといいことだ。僕のことなんて気にしないようになって、本当に目標にすべき人を見付けるのではないか。
きっとそうだ。
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