4-5

 敗戦。台風。恩人がポエ将。少女には激動の一日だった。

 福田さんが僕と対戦したかった理由。それは、お世話になった「お兄ちゃん」が僕に負けて将棋をやめてしまったから、だった。そして一度目のチャンスが潰えたその日に、その人が今何をしているかが分かったのだ。

 いや、実際どういう生活しているかは全く分からないけど……。

 部屋に戻って、ロコロの動画を続けて視聴した。どれだけ見ても、対戦した時の記憶は蘇らなかった。あと、僕には詩が響かなかった。

 路線バスの旅は、かなりちゃんとしたものに仕上がっていた。地元のおじいさん。ゲーム好きの小学生。たまたま温泉宿に泊まりに来ていたアマ強豪。なんやかんやで詰将棋を解ける人を探し出して、前に進んでいた。

 これもまた、将棋を楽しむ形だ。探せば、将棋のできる人はどこにでもいる。自信満々に挑んで間違えた人も、なんとなく当たってしまった人も、とても楽しそうだった。

 今僕は、将棋を楽しめているだろうか。そんなことを考えていたら、なかなか眠れなかった。



「加島君、踏ん張りどころよ」

「えっ」

「自分の立場、わかってないの?」

 帰りの飛行機も、隣は中五条さんだった。

「それはどういう……」

「刃菜子ちゃんは加島君の中に、お世話になった人の姿を見ていた。やり場のなくなった憧れの気持ちを、投影していたの」

「僕の中に?」

「でも、本人が現れてしまった。そしたら、それは終わるじゃない。刃菜子ちゃん、もう加島君に目を向けなくなるかもよ」

「えーと、それに何か問題が」

 中五条さんの細い目が、極限まで細くなった。眉間にしわが寄っている。これはもしかしてあれか、「汚物を見るような視線」

「ばか。ばーか」

 そしてストレートな罵倒。理由がわからないので困惑するばかりだ。

 ちらりと振り返る。僕たちよりもかなり後方、通路側の席に、福田さんはいた。口を真一文字にして、目をかっと見開いて座っていた。

 台風の影響で土砂崩れや倒木があり列車が運休、仕方なく彼女も飛行機で帰ることになったのだ。

「ネタ将の恩人が配信者でポエ将、か」

 世の中複雑で、何が起こるかわからない。

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