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「海老がこっち見てる……」

 僕はしばらく、伊勢海老と見つめ合った。

「ははは。食うしか楽しみないからな。遠慮せずに」

 本来ならばみんな夜の街に繰り出したかっただろうが、暴風雨で外に出ることができない。大人たちはホテルのバーに、そして未成年組は会長引率で和食レストランに来たのだった。

「会長ぅ、ありがとうございますぅ」

 福田さんが余所行きの声でよいしょする。いや、まさによいしょしがいのある料理だった。

「そういえば二人はドラマ組だったな。反響あっただろう」

「……まあ、そうですね」

 中五条さんは苦い顔だった。が、刺身を口に入れると表情がほころぶ。

「僕は全くです」

「名脇役とはそういうもんだ。そういえばあれだろ、ネタ将っていうのはこういうアクシデントも楽しむものなんだろ」

「そうですね……きっと何か起こってますね」

 スマホでタイムラインを確認する。盛り上がっていた……が、それは予想外の話題でだった。

「おう、何があったんだ」

「バスで旅してます」

「バスで?」

「動画が話題のようです」

 今日の流行ハッシュタグは、


#秘境路線バス5手詰め解いてもらわないと進めない旅


 普通はそういう想定で……なのだが、今回はそれを実行している人たちがいるようなのだ。

「はー、テレビでもないのにそんなことを? おもしろいもんだな」

 どうやら、将棋生主の四人が集まって、パロディ的な旅をして動画にしたものらしい。田舎のバスに乗り、サイコロを振って下りる停留所を進む。そこから歩いて、五手詰めを解ける人が見つかるまで次のバスに乗れない、という企画だった。

「よく考えるものね」

 中五条さんはあまり興味がなかったようで、ちらりと見た後てんぷらに箸を伸ばした。

「これ、間違えやすい五手詰めだよな。というか、そもそも人に会えないんだな」

「あ、この人の動画見たことあります。将棋の詩を読むんですよ」

 旅をしているうちの一人は、ポエ将の霞通かすみどおりロコロだった。やっぱりマスク姿なので顔はわからない。


「あっ、やっと会えましたね。右四間にいいようにやられていた時に、銀ぶつけを見付けたかのような喜びが、胸の中に風として渦巻いています」

「ロコロ君、やっぱりわからない」


 どうやらというか当たり前にというか、いじられキャラのポジションのようだ。キャラは徹底していて、常に将棋に絡めた詩的表現をぶち込んでくる。

「おー、見つかるもんだな。やっぱり年配の方の中には隠れた強豪がいるってやつだ」

「でも、もっと人家の少ないところとかもありますよね……って、どうしたんですか福田さん?」

 スマホをのぞき込んでいる福田さんの目が充血していた。唇が震えている。そこまで感動するシーンだったかな?

「……ちゃん」

「え?」

「これ、お兄ちゃん! あんたが負かした相手!」

 指さす先は、ロコロ。

 そう、見覚えがあるというのは、確かだったのだ。


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