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「なるほど……リベロに転向して成功した人もいる、と……」

 美鉾は、スマホで調べた内容をノートに書きこんでいた。特にスポーツに関しては、なんにでも対応できるようになっておきたいらしい。ノートの表紙には「ネタ帳」と書かれている。


「この筋はですね、実はソフトで調べてみると悪くなってるんですね。人間的には先手優勢に見えるんですけど」


 僕はと言うと、ネットで動画を見ていた。息抜き、ではない。最近は将棋の配信をする人も増えてきた。アマ強豪やプロ棋士のものもあり、普通に参考になるのだ。

「それは誰なんですか」

「わからない。わからないけど、相当強い人だよ」

 おそらくは、元奨励会員だろう。顔を出していないので、僕の知識では誰かを当てることはできない。


「で、ここで玉を上がるのが最善手らしいんですね。不思議ですねえ」


「はー、なるほど」

「兄様、この本借りていいですか」

「ああ、いいよ」

「ありがとうございます。じゃあ、私部屋に戻りますね」

 美鉾は、パソコンが借りられないとわかると僕の部屋から撤退する。そして不思議なもので、パソコンが奪われないと思うと安心して気が抜けてくる。うつらうつら……


「……その風景がね、素晴らしいんですよ。多くの子供たちが、盤に向かっていて。勝負の途中なのに、魅了されてしまったんです」


 はっ、と気が付くと、見たことのないマスクをした男性が動画の中にいた。寝落ちしている間に、関連動画に飛んでしまったらしい。


「ああ、僕は勝負するのに向かないな、と悟りました。でも、将棋は好きなんです。だから……描いていきたいと思ったんです」


 それにしても何の話だ?


「タイトル、『風のない部屋』


扉は締め切られ

感覚も閉じられ

世界は収縮する

そして私は……」


 なんだなんだ。突然詩を読み始めた。動画のタイトルを見ると、「ロコロのポエ将チャンネル」とあった。ついにポエ将の配信主が現れたのか!

 そしてこの男性、どこかで見たことがある気がした。将棋界の関係者だろうから、あったことがあっても不思議ではない。マスクを外せばわかるだろうか。

 ちなみに、詩の中身には何も感じることがなかった。

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