3-3

 形勢は混とんとしていた。秒読みになり、どちらも何回か間違えたものの、致命的な傷にはなっていない。

 そして、水垢離が続いているのか、中五条さんの投稿は止まったままだった。

「どうなるんでしょう」

「指運か……気合か」

 いつもとは違う持ち時間。いつもより多い視線。そして、いつもより強い相手。福田さんにとってはすべてが苦しいだろう。それでも。それでも彼女は、僕と対戦すると言ったのだから。


<手首ひねり #ネタ将龍の決まり手>


 が。タイムラインは対局に注目するばかりではなかった。大相撲開催中のせいか、謎のタグが生まれていた。新人戦以外の対局がないのも、ネタに走りやすい空気を作っていたのかもしれない。


<風呂壊し #ネタ将龍の決まり手>

<勇みリツイート #ネタ将龍の決まり手>


「ま、まったくわかりません」

「相撲もノーチェックだったか」

 対局の検討。観戦。応援。大喜利。いつも以上にタイムラインはわちゃわちゃしてきた。

 そして。福田さんが渾身の勝負手を放った。一見詰みはないのだけれど、危ない筋がたくさんある。逃げ間違えたら、終わり。僕も読み切れる自信がない。

 更新ボタンを連打する。なかなか局面が変わらない。

 一気に六手進んだ。

「あっ」

「どうなったんですか?」

「詰みがある」

「勝ちですか?」

「見つけられるかどうか」

 息をのむ。

 連打。

 沈黙。

「やったぞ」

「すごい。よかった……」

 福田さんが勝った。結果が出てから実感する。よくこの相手に勝った。すごい。

 一時、ネタ将の動きが止まり、福田さんへの称賛が溢れかえった。そして。


<戻ってきました。刃菜子ちゃん、勝ちましたね。本当にうれしいです。水をかぶり続けてよかったです>


 中五条さん、やっぱり本当にずっと祈っていたようだ。そして、とあるネタ将の投稿が。


<姉弟子の水垢離 #ネタ将龍の決まり手>


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