#ネタ将龍の決まり手

3-1

<はじめまして。女流棋士の中五条関奈です。今日からここで発信していこうと思います。よろしくお願いいたします。>


 非常に無難な出だしだった。

 中五条さんのアカウント開設に喜ぶファンもいれば、内容に物足りないといった人もいるようだ。ただ、実際彼女がどういう人なのか、僕もそんなには知らない。今後、驚くような展開があるかもしれない。

 その一方。


<お久しぶりです! 明日対局です!>


 福田さんは、久々に一言つぶやいたのみだった。もともとネタ将用のアカウントは別だったのだが、いつの間にか公式アカウントばかりで投稿するようになっていた。放送中にネタ将になることを宣言したぐらいなので、ネタを言っても今更驚くファンはいない。

 だが、今日の彼女にはネタ将している余裕などなかったのだ。明日は新人戦の対局がある。相手は四段で、福田さんにとっては初めての男性棋士との公式戦ということになる。

「明日、どうなるんでしょう」

 美鉾は、そわそわしている。妹と福田さんの間には、ネタ将としての友情があるようだ。

 正直なところ、厳しい戦いだと思う。最近の福田さんはかなり調子が悪いし、相手は三段リーグを抜けたばかりの生きのいい若手棋士である。ちなみに僕もかなり負けている。

 ただ、いい要素もある。ネタ将活動が解禁されたことにより、心の引っ掛かりが一つなくなったはずだ。もともと育ち盛り。メンタルの不安がなくなれば、一気にはじけることだってある。

「いい将棋が見られるはずだよ」


 そして翌日。平日なので美鉾は学校である。僕は一人で、中継を見てりタイムラインを見たり。


<おはようございます。今日は私の妹弟子、福田刃菜子ちゃんの対局があります。昔から見てきましたが、本当に努力していますし、まじめな女の子です。男性棋士との対局は初めてですが、実力を出し切ってほしいです。>


 中五条さん、二つ目の投稿だ。微笑ましい。


<ちなみに刃菜子ちゃん、昔はカチューシャをしていました。かわいらしくて好きだったのですが、プロ入りするときに辞めてしまいました。もちろん、今のスタイルもとてもかわいいです。今日は制服ですが、いつかタイトル戦に出た時はこんな和服を着てほしい、などとよく考えています。>


 ほう。


<刃菜子ちゃんの昼食にも注目です。実は辛い物が苦手なので、カレーではないと確信しています。ただ、それでいて中華が好きなのでどこまでチャレンジするか。皆様もぜひ予想してみてください>


「何かの……素質があるぞ」

 ネタ将ではないが、今後の中五条さんにファンは期待できるのではないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る