2-6
カフェの個室。僕の向かいには、中五条さんが座っている。
隣には、福田さんが座っている。
まるで三者面談なのだが、実際三者面談なのだった。
「えーと……ですね。まあ、いろいろと経緯は聞いているんですけれども」
中五条さんは、細い目をさらに細くしてこちらを見てくる。福田さんの表情は怖くて確認できない。
「私の状況もわかってる」
「そう。そうです。いろいろと憶測が飛んで迷惑している、と。で、二人とも将棋の調子がとても悪い。これは僕の目から見てですが、気持ちの問題が大きいかと」
「……」
「ネタ将でないのにネタ将と言われる。ネタ将でいたいのにネタ将でいられない。それで将棋に影響が出るというのは、ちょっともったいなくないですか」
二人とも、将棋に精彩がない。特に中五条さんは、ドラマ出演後の注目される対局で、どうしようもないぐらい完敗してしまった。
「加島君的には、どうすればいいと思うの?」
「きちんと、自分を表現するのがいいんじゃないでしょうか」
「自分を?」
「ちゃんと発信すれば、中五条さんがネタ将でないことはわかってもらえると思います。それに福田さんは……もうすでにネタ将なんです。息を吸うように。いま福田さんは、呼吸困難なんです」
「加島さん……」
恐る恐る見てみると、福田さんの瞳に光るものがあるようだった。いろいろな感情が渦巻いているのだろう。そういえば、僕の呼び方もプロになる前のものだった。
「具体的にはどうすれば」
「公式のアカウントを作りましょう。そこでおもったままにつぶやきましょう。写真でもいい」
「……」
「福田さんにも、自由にさせてあげてほしいです。もしそれが間違った道だったとしても……まだ全然やり直せるじゃないですか。それに本物のネタ将女流棋士が話題になれば、中五条さんの疑惑もなくなっていくと思います」
「……加島君、そこまで言うならちゃんと責任を持ってね。刃菜子ちゃんは、あなたのことを信頼してるんだから」
「それはないです」
福田さん、これはなぜか即答だった。
「刃菜子ちゃん、私は本当にあなたが心配で。いつかまた、あの時みたいに『もうやめる』って言っちゃうんじゃないかって。だから本当の本当はやっぱり、ネタ将はしてほしくない。でも、笑顔でもいてほしい。だから……約束して」
中五条さんは、精一杯目を開いた。
「ネタ将は、一日一時間まで」
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