2-5

 目が覚めると、かなり明るかった。時計を見ると九時二十分。

 居間に行くが、誰もいない。両親は出勤、美鉾は学校に行った後だった。

 お湯を沸かし、トーストを焼く。できるだけ規則正しい生活を、と思うのだけれど、こういう日もある。

 とりあえず、テレビをつける。

「最近は、将棋ファンもだいぶ増えてきまして」

 ちょっとびっくり。ただ、最近将棋の特集をされることも増えた。コンピュータとの対決、中学生棋士の誕生、プロ編入試験。刺激的な話題は多い。

「そうなんですよ。私も驚くんですけれども」

 そして、ゲスト席には大林九段がいた。しかも和服だ。気合が入っている。

「指すだけでない楽しみ方があるんですよね」

「はい、主に観戦するファン、『観る将』ですね。対局だけでなく、イベントに来てくださったり、その様子をネットで見ていたりといったこともあります」

 コーヒーを淹れる。この番組を全国で観ている人がいると思うと、不思議な気持ちになる。

「スポーツ観戦に近い形になってきたんですね」

「はい。それ以外にも写真を撮る『撮る将』、将棋に関する本を読む『読む将』というのもあります」

「そして、昨日から話題になっているものがあるんですよね」

「はい。ドラマに本物の女流棋士が出ていたんですが、そこで演じていたのが、ネット上の面白投稿に詳しいという役柄でした。実際にネット上には毎日のように将棋をネタにして面白投稿で盛り上がる『ネタ将』という人たちがいるんです」

 飲みかけていたコーヒーを噴出した。

「へー。芸人というわけではなくて、面白い投稿をしているんですね」

「はい。はがき職人に近いでしょうか? 番組があるというわけではないんですけど」

「昨日出演していた中五条さんは、本物のネタ将なんですか?」

「私が知る限り彼女はそういうことは。でも、本名以外でこっそりしている棋士もいるようですし、あるいは」

 えらいことである。タイムラインを見ると、やはり大変なことになっていた。


〈今テレビでネタ将って〉

〈プロが解説してるし〉

〈ああ、もう逃げられない〉

〈俺はネタ将じゃないから大丈夫〉


 そして極めつけは。


〈中五条さん、自首しましょう〉


 ネタ将嫌いが最もネタ将疑惑が強くなる。なんということでしょう。

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