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「あっ、兄様だ」

「よかった。ここはカットかと思った」

 エンディングシーン、タイトル戦っぽい対局風景が流れた。撮るのは時間がかかるけれど、流れるのは一瞬だ。

「すごい、二局とも同じ記録係だなんて全く気になりませんでした。兄様、存在感を消す天才ですね」

「お、おう」

 確かに、僕は目立っていなかった。それに対して、中五条さんは大活躍だ。というのも、監督に独特の雰囲気が気に入られて、当初の予定よりも出演シーンが多くなったのだ。

「大変です、兄様!」

「どうした」

「反響が大変なことに」

「僕の?」

「なわけないでしょう」

「だよね」

 女流棋士が出演ということで、放映前から将棋ファンの間では話題になっていた。とはいえ、対局シーンのみのチョイ役と思っている人が多かった。それが。


〈中五条さんかっけー!〉

〈ほぼ主役じゃね?〉

〈この梅田さん、かなりのネタ将よね〉

〈というか、中五条さん絶対ネタ将だって〉


「すごい。将棋ファン以外もけっこう反響あるな」

 一番多いのは、「本物のプロだったんだ」というもの。確かに演技も自然だったし、見た目も役者っぽい。

「中五条さん、発見されましたね」

「これまではあんまり表に出てなかったもんなあ」

 そして、ネタ将たちが動き始めた。


〈梅田さん、これレギュラーになるんじゃないかな〉

〈むしろ、スピンオフで主役〉

〈「科学将棋研究部の女」で連盟の事件解決だな〉

〈なぜ歩は足りなかったのか #科将研の女〉


「あっという間に始まったな」

「私も参加しないと!」

 美鉾は、腕組をして唇をかみしめた。職人の顔だ。

 どうやらこれは、祭りが始まったようだった。

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