2-2

「兄様、髪を切りに行こうとしていますね」

「えっ」

 財布を持って立ち上がるなり、美鉾に指摘された。

「なんでわかったんだ」

「いつもは見ないフリーペーパーをじっと見ていましたもの。ご飯に行く友達はいませんし、ファッションにも無頓着なはずだから」

 当たっているが言い方というものがあろう、妹よ。

「まあ、ちょっと伸びたかなー、と」

「前に切ってから一か月もたってませんよ。兄様、よく考えてください」

「なんだ」

「会長はありのままの兄様を見て、記録係っぽいって言ってくれたんですよね? それなのにこざっぱりしてしまったら、期待に沿えなくなるんじゃないですか?」

「いやあ、いいじゃないか、髪を切るぐらい」

「だめです。絶対にダメです」

 妙なところで美鉾は厳しい。ただ、まあ考えてみれば言う通りかもしれない。

「わかったよ。苦労がにじみ出た、記録係らしい記録係として撮影に挑むよ」

「それでこそ兄様です」

 すごすごと部屋に戻る。と、その時、電話がかかってきた。会長からだった。

「もしもし、加島です」

「ああ、加島君。いやあ、君の言っていた通りだったよ。なかなか中五条さんがウンと言ってくれなくてね」

「やっぱり」

「何かいい作戦はないかな。同年代でしょ、君たち」

 そうは言われても、これまでほとんど接点がない。ちゃんと話したのはこの前が初めてだ。

「うーん、どうしたものでしょうか。……あ」

「あるかい」

「こう言ってみてください。もし引き受けなかったら、福田さんに頼むことになると。そうなると福田さんの時間を奪ってしまうことになるけれど、中五条さんが引き受けないなら仕方ない、などと付け加えて」

「そう言ったら大丈夫なのか?」

「確信は持てませんが……やってみる価値はあると思います」

「そうか! 早速試してみるよ」



 二時間後、再び連絡が来た。中五条さんが、出演を引き受けたということだった。

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