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 つぶやきを見ていると、確かにいつもと状況が違った。画像がないので、対局についての言及も、ぱっと見では全く意味が分からない。そしてネタで楽しんでいる人たちも今のところ「変わってしまった状況」について言及しているので、楽しい感じがほとんど生み出されていないのだ。

 ツールのたった一つの変化でここまで違うなんて、考えたこともなかった。

 美鉾は、そんな状況を変えるべくあれやこれや考えているようだった。僕はと言えば気にはなるものの、新人戦が近いので研究に力を入れなければならない。人生初の、公式戦なのだ。

「えーっ!」

 しかし、集中はできなかった。妹が、これまで聞いたこともないような驚きの声を上げたのだ。

「美鉾、どうした?」

 扉越しに、声をかける。

「兄様、すみません。邪魔してしまって……」

「いや、気にするなよ。何かあったのか」

「それが刃菜子さんからメールがあって……ネタ将を禁止されたって」

「そうか……早かったな……」

「えっ、兄様知っていたんですか」

「実は……」



 話は夕方にさかのぼる。女流棋士の中五条さんは、僕にこう言ったのだ。

「刃菜子ちゃんに、ネタ将を禁止させる」

「ちょ、ちょっといきなりなんでそんな」

 「ネタ将」と「禁止」というワードの突然の激突っぷりに、頭が混乱した。そんなこと、世の中で起こりうるのか?

「彼女は女流棋士。将棋で魅せるべき。それに、ネタを考えている時間ももったいない」

「いや息抜きとか大事じゃないかなーと思いますけどどうですか?」

「そんなに彼女に面白人間になってほしいの?」

「そーゆーわけでは……」

「ネタ将は完全にインターネットと同じ機能を持ってる」

「……ん? え?」

「どこでもできてしまう。いつでも参加できてしまう。これ以上依存が進めば、刃菜子ちゃんは強くなれない」

 中五条さんの中では、ネタ将は悪魔の使いのようにとらえられているのではないか。そんなことはない。そんなことはないはずだ。そんなことはない……よね?

「師匠にも相談済みだから。もし刃菜子ちゃんが納得してくれなかったら……加島さんからも説得、お願いね」

「……うーん……」

 何と答えればいいのか、わからなかった。ただ、心の中で福田さんは禁止と言われて従うような性格ではない、とちょっと高をくくっていたのだった。

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