第2話

「ああ、そんな事よく憶えてたな、夏岡」

「よく憶えてたって、五年前の同窓会でもこの話したぜ、俺」

「そうだった?私はその記憶もうない」

「私はその反対だな。結構、高校時代のあの不思議な一コマは今でも偶に思い出す」

「やだなあ、それって思い出し笑いってやつだろ。少し子供じみてないか。俺たちもう今年で四十五歳だぜ。つまりオギャーって生まれてから半世紀近く生きちゃったわけでさ」

 

 その同窓会には、固定の四人がいつも首都圏の何処かで集合している。

 夏岡宏は公立大学を卒業後に地方銀行へ就職したが五年で退職し、以後は独立した個人事務所でコンサルティング業務を中心に行っているが、最近は羽振りが悪く専門学校の非常勤講師や講演がメインの仕事になりつつある。この為、彼の家計は歯科医院を開業している歯科医師で妻の年収に頼っているのが実状であった。一番の趣味は高校の部活以来のバレーボールで、今でも地域社会のママさんバレーのチームに所属し、コーチ指導をボランティアで務めている。また小学生の一人息子にもバレーを熱血指導中であった。


 秋野真由美は短大を卒業後は大手自動車会社に就職し重役秘書を三年ほど務めた後、上司との結婚で寿退社し、以降はほぼ専業主婦を続けているが、長年通い続けた茶道教室で腕を磨き、来年は自宅で教室を開講予定である。またスポーツも好きで、夏岡のママさんバレーのチームに入った事もあったが、今は身体を動かすのはもっぱらテニスと相場が決まっている。夫と娘や息子からなる四人家族は都内の高級住宅街に豪邸を構えていた。


 冬木幸次は私立の工業大学を卒業後、ゲーム会社に就職し現場の第一線でゲームプログラマーとして活躍していたが、十数年前に独立して起業した。主に大手からの下請けで経営が成り立っている状態だが、栄枯盛衰の激しいゲーム業界で、十年以上しぶとく生き残っている。少年の頃から収集癖や凝った趣味があり、高校時代はアマチュア無線に嵌った。同窓会ではあの笑い袋の制作者ではないかと疑われたこともある。子供のいない夫婦で仲が悪く、この四人が集まると家庭の愚痴を零すことが多い。

 

 春澤果歩は教育大を卒業後は海外留学を経て、教員採用試験に合格し都内でずっと英語の高校教師を続けているが、この四人の中では唯一独身であった。決して器量が悪く容姿に恵まれていないわけではない。むしろ秋野と同様に高校時代はクラスの中では憧れのマドンナの範疇に収まっていたほどである。四十を過ぎた今でもこの二人の女性は中肉中背からやや細身の体形を維持し、しかも美人顔に近く、頭頂から剥げてきた夏岡と中年太りの冬木にとっては、四人だけの同窓会とはいえ人目につく場所でこの二人の綺麗な女性と再会できるのは幾分誇らしくもあった。


 学年全体の同窓会は大人数を収容できるホテルや料亭を貸し切る場合が多く、当時の担任教師を招いた宴会後の流れでこの四人の二次会カルテットが始まるのだが、今日はそうではなかった。夏岡が残りの三人へメールで連絡し、週末の金曜日の夜、急に集まることになったからだ。

 

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