音
「寒い…」
明け方はさらに冷え込んで、私がヒーター代わりをしてるだけでは間に合わず、リリア・ツヴァイは寝ていられなかったようだった。住宅街があったところでは空き家に上がり込んでそこで暖をとれたけど、この辺りだとさすがにそうはいかないか。
まったく煩わしい。
博士がどうしてこんなことをしたのか、やはり私には理解できない。まあ、あの人のすることはいつでもそうだったけれど。
しかし今更どうすることもできないし、リリア・ツヴァイの寿命が尽きるまではこれで行くしかないのか。
どこかで毛布か何かを手に入れる必要があるだろうか。私と一緒に毛布にくるまればそれで間に合うだろう。この辺りの気候であれば。
私達は取り敢えず大陸を東に向かって横断するつもりだった。そこから先は北に向かうか南に向かうか、それはついてからの話だけど。
寒いので体を温める為にもリリア・ツヴァイは自分の足で歩きだした。エネルギーバーを摂取しながら。
しばらく歩いて体が温まってくると、周囲の光景を見渡す余裕もでてくる。と言っても、見るべきものは何もないただただ背の低い草が転々と生い茂っているだけの、ほぼ砂漠に近い平地だ。次の都市開発の計画に入っていたようだけど、今ではそれも遠い過去か。
私もリリア・ツヴァイも言葉もなくひたすら歩く。乾いた風が土埃の匂いを運んでくる。だが、この光景も千キロも歩けばまた変わってくる筈だ。この先には大きな湖があり、森林地帯になるから。
と言っても、今の調子では一ヶ月近くかかるかもしれない。さりとて、決められたスケジュールもない旅だから、急ぐ必要もない。
「疲れた…」
彼女がそう言うから、私はリリア・ツヴァイをリアカーに乗せて歩いた。
静かだ。
今、この
そこを、私はリアカーを引いてただ歩く。
シュ、シュ、と、私の筋線維アクチュエータの微かな駆動音と、私の脚が地面を踏みしめる時に砂がアスファルトの間でこすれるシャリシャリという音と、キシキシとリアカーがきしむ音と、リアカーのタイヤが路面を転がるテテテテという音以外は、時折吹き抜けていく風の音しかしない。まあ、私の聴覚センサーの感度を上げれば、リリア・ツヴァイの呼吸音や鼓動、血管の中を流れる血液の音や内臓が活動している音も聞こえるけどね。
でも、今はその必要もない。
だから私はただ歩き続けたのだった。
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