第15話 実戦投入 人型重騎兵
人型重騎兵は、飛行状態で取り残されないようにブーストハンガーで曳航されながら警護機は前方射出される。母艦のスピードに合わせて相対速度をゼロにするための強化パーツだ。
ブーストハンガー一機につき、三機の人型重騎兵が曳航されている。
互いの接触を避けるためにアームを長く伸ばし、伸縮式のワイヤーでつながっている。最大の長さは五百メートルだがそれほど離れてしまえば護衛が務まるはずもない。
それが四組。十二機の人型重騎兵。
重騎兵中隊での出撃だ。
トーケンの人型重騎兵はまずは中隊に属していない単独での狙撃を担当する。
スワローを追尾している敵機空母狙撃の任に着き、戦艦砲のような大型ライフルを抱えつつ待機する。飛行中の後部デッキでは不安定な狙撃体制。
トーケンは先天的に手の甲の筋肉が発達していて繊細な動きをコントロールできるという特異な才能を持っていた。筋肉がついていない子供の頃から、指とトリガーの接点のバランスとクリック感を的確に捉える感覚が鋭敏な子だった。そして訓練されていて各指が独立して動かせるようになると、手首から先が柔らかで繊細なミリ単位の運指ができる。そんなある時期、一時期に跳ねるような才能の伸びを示すが、中空で浮遊しながらの運指ができているからといってそれ以上の能力の向上が期待できると解釈するのは誤りだ。
狙撃に対して、よりイレギュラーな動きをする相手の動きを想像するコンマ数秒の先を読む短期の預言者然とした才能があってこそ、狙撃の才能は実現する。
トーケンには今、大胆にも追従する敵の機体のコクピットを背後から狙おうとしていた。
敵の機体から、凶悪な重量を持つ鋼の部品がこぼれ落ちるように機体が排出されているが、それらを一切無視し、狙撃する。
スコープの中のスコープのレティクル(照準を定めるための線)が視線の中で揺れている。その揺れに規則性と、イレギュラーな動きを情報入力するため両目を見開き、効き目の右目にスコープを当てながら、もう一つの左目でフラップ・スポイラー・エアブレーキをじっと見つめている。
排出された敵機の重量分軽くなる。その動きで、軽く機体が浮き上がる上下幅を確認している。トーケンが見つめるレティクルからは、敵のコクピットははずれない。
指を引き絞り破裂する火薬の爆圧に押され銃身内を弾頭がライフリングに食込み回転し徐々に加速されながら銃口から射出、軌道は敵機体のコクピットを射抜いた。
えぐられ指揮系統を失い空母はだらしなく堕ちてゆく。
空の薬莢を排出しながら「フローティングバレル、精度高いな。」とトーケンは呟いた。
トーケンの機体のコクピットの背後には、腕組みをしたアフタがいて、軽く感嘆の声を上げながらも「落ち着かないでくれよ、少なくともあと三機射抜いた後の挙動を見たい。」と告げる。
アフタの声に苦笑いしつつ、慌てる敵を補足する。
「敵が慌ててるから、照準がね…。」
「動き、速い?当てきれない?」
「大丈夫。あの子達が落ち着かないパニックに陥ってる動きしてても当てるよ。人型重騎兵のヘッドモニタ狙ってみる。」
重量感のある着弾音を響かせて、一機の重騎兵の頭部モニタが吹き飛び、手足を妙な形に捻りながら落ちる。
ふっと息をつき「まだ、ブレは起きてないね。」トーケンが言うと。
「多分。目視できるくらいにはブレてないと思う。」とアフタが答えた。
三発目。
「ハンドガンを誘爆させる」
話しながら引き金を引く。
「手首着弾。外したんかな。それとも照準がずれ始めた?」瞬きもせずに、アフタが聞く。
射出した弾丸はズレて手首に着弾はしたが、ハンドガンは盛大な爆発を起こして、機体ごと吹き飛んだ。
「射出時、喋ってたけど敵機捕捉はしてた。照準、ブレ始めたみたい。これ以上は当てられるけど一気に精度は低くなる」
「そうか、n乗分くらいの歪みがでてるかもな…テストは終わりだね、ありがとう。」そう言うと、アフタは、自分で退出口ハッチを開けてのそのそと出て行った。
運動が苦手なアフタは、転げるようにして降りて整備員へ指示を出し、カタパルトの準備を整え始めた。
それらを予備モニターで見つめながら、マベリアはこれが開戦のきっかけになるという事実を認めながらも淡々と自分の役目に徹する子達だと、半ば呆れながらも頼もしく思っていた。
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