15、白髪鬼
この死の庭園を管理する妖怪かと思った。
優一郎の背中に乗っているのは満里奈だった。
それに気づき驚く間もなく、優一郎は二人を凝視した。
二人とも顔を上向けて、ググウ……と喉を締め上げられ、少し身震いし、動かなくなった。
ああ……、と、優一郎はひどく悲しかった。
とても大事なものを、失ってしまった…………
「あははははは、あ〜〜、楽しい」
優一郎は背中に乗る物を思い出させられ、振り仰いだ。
満里奈が、ギョロリとした大きな目玉を優一郎に向けた。
「さあ、残ったのはあなただけ〜。早く『誰もいなくなった』になってちょうだいな?」
かわいく笑ったつもりだろうが、全然かわいくない。不気味なだけだ。
「お……、おまえ……、なんなんだ?……」
「あたしい? あたしはあ〜、この森の、
魔女よ」
凄味のある笑いに、優一郎はようやくゾッとした。
「あははははははははは」
その顔を見て満里奈は大口開けて大笑いした。さもおかしそうに、さも勝ち誇って。
「誰もここから帰さないわよ。さあ、あなたはどうやって死んでくれる? やっぱり首をつる? 手首切る? 杭を心臓に突き刺してみる?」
満里奈は大きな目で優一郎を覗き込んで楽しそうに薦めた。優一郎には小柄な女の子1人はね除ける力も残っていない。
「さあ、何がいい?」
(なんなんだこれは?)
と思った。
自ら命を絶とうとした自分に下された、
(天罰なのだろうか?)
と思った。
真っ暗な森の中に、
ザッザッザッザッザッ、
と、何物かが駆ける音が響き、
思いがけず素早く背後に迫ってきた。
今度はなんだ?と優一郎は思ったが、満里奈の方は優一郎の数倍ギョッとして木々の奥を凝視していた。
「なんだ?……」
白い物が、猛烈な勢いでヒョイヒョイ跳びはねながら山を越えて迫ってきた。
「ええいっ!」
白い影は二人が首を吊った木めがけて石を投げた。
全然当たらず、後ろの闇に消えた。
当たらなかったのを確かめて満里奈は白い影の方を振り返った。
満里奈は驚愕した。
「お……、おまえはっ!?」
優一郎も驚いた。まさか、これは夢だったのか、と思った。
ええい!と白い人は二人の横を駆けていった。
それは、
紅倉美姫だった。
「あっ!?」
と、また二人は驚いた。
首をくくった二人が、息を吹き返し、輪に手をかけてジタバタ暴れていた。
駆け寄った紅倉はミラノの脚を抱えて、叫んだ。
「あなた! 手伝って!!」
優一郎は自分が言われたのだと気づいて立ち上がろうとした。
「寝てろ、死に損ない!」
満里奈がゴン!と優一郎の頭を踏みつけて走った。
「このクソ女! 邪魔はさせないよ!!」
満里奈の向かったのは紅倉美姫だった。両手を突き出し、首にかけようとする。
紅倉はミラノを支えて無防備だ。
シュウッ、と何か飛んでいって、
「ぎゃっ」
満里奈の後頭部を直撃した。
優一郎を今度は黒い影が飛び越えていった。
よろめく満里奈に、
「先生に何をするっ!!!」
まるでブルース・リーのような強烈な回し蹴りを横っ腹にたたき込み、満里奈は4メートル横にすっ飛んで地面を転がり、木の根に乗り上げて幹に激突した。
芙蓉美貴だった。
芙蓉はバタバタ暴れる滋の脚を押さえて支えた。
「くっ」
優一郎も立ち上がり、1度激痛にピョコンと跳ね上がり、片足でぴょんぴょん跳ぶように走り、滋の脚に取り付いた。
「こっちは僕が。あなたはミラノさんを!」
芙蓉は紅倉と一緒にミラノの脚を押して倒木に足をつかせ、自分も上がると首に食い込む輪をゆるめ、外した。ミラノは前に倒れ、紅倉と一緒に地面に転がった。
「うぬぬぬぬ……」
優一郎に支えられ、滋は自らロープを引きちぎった。ドサリと地面に落ち、
「ミラノ……、美乃さん!!」
と這いずって寄った。
ミラノはゲホッゲホッと弱々しくむせて、ハアハアと息をついた。
「滋……ちゃん………」
「ああ、ミラノさん……、良かったああ…………」
滋はミラノを抱き起こし、抱きしめた。顔をすり寄せ、何度も何度も頭を撫でた。
ふう、と息をついて芙蓉に手を引かれて紅倉は立ち上がった。
「美貴ちゃん、やり過ぎ」
「先生こそ」
芙蓉はツーンとして言った。
「先生、おかしいですよお? どうしてこんなところをあんなに早く走れるんです? 昼間はどこでだって迷ってつまずくくせに!」
おお〜い、と声がした。
「だいじょうぶですかあ〜〜っ!? 何がありましたあ〜〜っ!?」
明るいライトが近づいてきて、大勢の男たちが現れた。
ビデオカメラを構えている。
優一郎は思わず言った。
「あ……『ほんこわファイル』……」
ほんこわファイル……テレビ番組「本当にあった恐怖心霊事件ファイル」のことだ。
わあっ、と、テレビスタッフたちは辺りの景色に気づいて驚きの声を上げた。
名物ディレクター、ひげモジャの等々力が訊いた。
「せ、先生、ここはいったいなんなんですか? い、いったい何が起こったんですかあ!?」
「ここは、えーと、見たまんま、死者たちの楽園……なのかなあ?」
どうやら紅倉はぶら下がっている死体には今気づいたようで、紅倉はいつものように幽霊の群れを当たり前のように見ていたらしい。
へえー、と今さらながらに感心して、
「なーるほどー、あなた方がわたしを呼んだのね?」
と、手を合わせて「なんまいだぶ」とお参りした。
目を開けると気絶している満里奈を眺めて薄ら笑いを浮かべた。
「では、楽しい謎解きタイムと行きましょうか?」
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