第6話 人間

 なんと用意周到。何の為にそこまで。

 縁切屋は、歩のストーカーをどのように消したかを説明してきた。

 ストーカー自体は生きているらしいが、怖い人たちで囲い脅したらしい。歩に近づいたら人生の保障は無いぞと。

 そして報酬だと云った新しい縁で生じたあの彼氏は、結婚詐欺師だったと。

 そうか、詐欺グループと繋がっているのか。

 卑怯な方法で他人をだまして稼ぐ為に、嫌がらせに労力をかける最低な奴だ。

 そのパワーを何故他のことに使わないのだろう。


「私が憎いか? そういうマイナスなエネルギーに私は反応する。貴方の縁切りも叶えてさしあげましょう」縁切屋は作られた笑顔で云った。


 こいつは妖怪じゃなく、人間だった。特殊な力が無くても他人をどん底に落とす事が出来る。平気で出来る。それが自分の仕事だと思ってやっているのだろう。

 人間の方が妖怪より怖い。怖い。逃げ出したい。

 

 けれども逃げ出したら恐怖は追いかけてくるし、いつまでも倍増する。

 そうだった、私の人生そうだった。

 嫌な事からは逃げて、でもまたそれに遭遇したら憂鬱になる。

 苦手な人とは向き合わず、極力接触しないようにしていた。


「嫌な仕事に嫌な上司、いつまで我慢しているのですか。貴方は幸せになる権利がある。嫌な奴とはさっさとお別れをして、新しい縁を迎えませんか」縁切屋は云う。


 嫌な上司に嫌な奴にはたくさん会ってきた。

 けれども話しかけてみたら、案外いい人だったこともある。そう思い込んで自分を納得させてきた。


「貴方が我慢する必要が、何故あるのです」縁切屋は云う。私の考えていることが解るのだろうか。


 

 難しい仕事からは逃げて、いつまで経っても出来ないまま。

 職場の環境、教える人が悪いんだ。そう思い込んでいた。

 けれどもある日やってみたら、意外とすんなり出来たりする。そんな時、変化点は自分だ。

 自分次第だ。


「貴方の足をひっぱる人たちがいなければ、もっと早く貴方の才能は開いていたのです」縁切屋は、笑顔なのか真顔なのか解らない表情で云う。


 私の才能? 私の環境?

 仕事が嫌だな、そんなことを呟きながら仕事に行く。

 仕事から帰ればごはんは出来ていて、お風呂はいつでも沸いている。

 食事の後片付けをすることも無く、自分の部屋でスマートフォンや本を見る。

 朝に起きたらごはんは出来ている。

 私は、仕事が嫌だなーとだけ呟いて、仕事に向かうことが出来る。


 ストレスがたまったら同僚にちょっと愚痴って、休日に友人とお喋りをする。

 好きなブランドの新作が出たら欲しいな、まだ高いな、と思ってネットでセールを待つ。

 けれどもボーナスが出るし、新作を定価で買ってしまう時もある。

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