第5話 遭遇

 私たちが注文したナポリタンが運ばれてきた。

 鉄板に乗って、ケチャップたっぷりの昔ながらのナポリタン。

 今の歩の話には不似合いな気がするけれど、純喫茶という場所は何でも吸収してくれそうな雰囲気を持っている。

 私はすぐにフォークを持って、ナポリタンを巻きつけた。

 歩はナポリタンには手をつけず、少し冷めるのを待っている。


「その前に、どうやって縁切屋に会えたの?」私は最大の疑問を投げた。


 縁切屋は、いきなり歩の前に現れたと云っていた。

 あの後輩の女の事を考えてもやもやしていたら、仕事の帰り道、急に現れたと。

 

「どうやって、歩の気持ちをキャッチしたんだろうね」私はまた疑問を投げた。

 本当に不思議だ。

 歩がナポリタンを食べだした。

 私はふと「そういえば、歩の彼氏の友達からフレンド申請が来たよ」と云った。

「そうなんだ、彼の友達もフレンドリーな人が多いから」歩は少し微笑んで云った。

 歩の微笑が儚く見えた。疲れているのだろうか。


 ナポリタンを食べている途中、ハーブティーが運ばれてきた。

 ハーブティ―で少しでも落ち着くといいなと思った。

 私は歩の愚痴を聞きつつ、刺激しないように気をつけた。

 夜十一時になった頃、歩と別れた。

 ここは飲み屋街付近なので、この時間でも人通りはある。パチンコ店の明かりもあるし、私は落ち着いて駐車場に向かった。


 駐車場に着いた時、いきなり私の目の前に誰かが現れた。

「夜分に失礼、縁切屋と申します。貴方と歩さんの縁を切りに来ました」

 上下黒の燕尾服えんびふくに、黒いハット。漫画で執事がかけるような丸い眼鏡をかけている。

 白い手袋を着用している。これが縁切屋? 見た目は執事じゃないかと、とっさに思った。


 縁切屋? どういうこと。何故私の前に?

 そういえば歩は「彼氏と後輩女の縁を切って」と頼んでいた。

 その報酬は? 歩は話さなかった。


「報酬は、違う縁を生じさせるんじゃないの?」私は縁切屋に聞いていた。

「おやおや、わたくしの情報をお持ちなのですね。そういうこともあるし、違う縁を頂戴することもある、それだけです」縁切屋は、ハットに手をかけながら云った。


「結果的に他の縁を切るってことでしょ。アナタは妖怪なの? 人間なの?」私は少し腹が立って云った。

「妖怪とは中々的外れな単語ですね」縁切屋は少し微笑んで云った。

「でも時を戻したんでしょ? ある姉妹の交通事故の話」私は素で聞いていた。

 縁切屋はふふん、と軽く笑った。

「あれは噂です、前準備です。そういった不思議な力があると思わせておけばこの縁切屋の信ぴょう性が高くなりますからね」縁切屋は得意げに云った。



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