第3話 縁切屋の話
ある秋の日のこと。
私は友人の歩と会った。歩とは以前、友達企画のライブで知り合った。
年齢は私より四つ程若いけれども気が合うので時々遊んでいる。
今日は、新しく出来たカフェに行くのが目的だ。
カフェの前で待ち合わせをした。私が着いた一分程あとに歩が来た。
栗色の髪の毛をきちんと巻いて、メイクもばっちりだ。
ピタっとしたズボンにふんわりとしたトップスを見事に着こなし、ヒールのブーツを履いている。
身長が高くスタイルが良いのでモデルみたいだ。
私は黒髪のボブにオレンジ色のベレー帽、アンクル丈のズボンにボーダーを着てヒールのないブーツを履いている。
歩は足が長いので、ミニスカートや短パンなどがよく似合う。
私がシンプルなファッションなのを知っていて、シンプルな服装で来る歩にはいつも感心する。
新しいカフェは北欧をイメージした内装だと書いていた。北欧がどういう所か解らないが、多分こんな雰囲気なのだろう。
外は風が冷たかったけれども店内は程よく暖かい。
私は紅茶を頼み、歩はラテアートを注文していた。
綺麗な子は、飲食物もお洒落なものを注文するんだなーと思った。
お互いに近況を少し語り合い、少しの沈黙が流れた。
タイミングを探していたかのように、歩が話し出した。
歩は少し前までストーカーに悩んでいたらしい。
そんな時に突然、縁切屋と名乗る男が現れたと云った。
「貴方を悩ませているしつこい男との縁を切ってさしあげましょう」歩はそう云われた。
歩としては勿論願ってもないことだ。
「報酬は、貴方に違う縁を生じさせることです」縁切屋は、そう云ったらしい。
「違うストーカーってこと?」歩は用心して聞いた。
「それは違います。あと、縁切屋は一人三回まで依頼を引き受けています」縁切屋はそう云ったと。
歩は縁切屋に、ストーカーとの縁切りを依頼した。
すぐにストーカーは、歩の周りから姿を消した。
しばらくしたら歩は、駅前の高級ホテル主催のワイン会で良い感じの男性と知り合った。
私が聞いた話と違うな。縁を切って、新しい縁を生じさせるなんて。
縁切屋は、一人じゃないのかな。
それに一人三回まで依頼が出来るというのか。
しかし歩はストーカーが消えて彼氏が出来た。嬉しいじゃないか。
結果的に良い報告だったので、そのあとは愉しい話を聞けた。
家に帰ってから私は、すぐにSNSを開いた。
歩が彼氏の写真を載せていないかチェックしようと思った。
写真が多いSNSはリア充投稿が多いので正直辛くなるが、歩の愉しい写真なら見たい。
あら、歩が彼氏の写真をアップしていない。
歩は意外に、嫉妬深い所がある。
今までならけん制の意味も込めて周りに【私の彼氏】アピールをしていたのに。
ストーカー被害に遭っていたから一応用心しているのだろうか。
SNSを眺めていたら、歩の彼氏からフレンド申請が来た。
多分歩が、私と会ったことを話したのだろう。
ホテル主催のワイン会に来るような人だ、きっとフレンドリーな人なのだろう。
私は承認ボタンを押した。
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