第33話

「別に私は月山君と一緒に行くの全然嫌じゃないよ。会長だって本当は楽しみで眠れてないの、だからちょっとおかしいの。」


いやこの人がおかしいのは平常運転だろう。ああでもツンデレ属性(演技派)までエンチャントされてもいたなと。


「いい、分かった?とにかくこれは愛好会活動なんだから、会員全員で行くのは当然の事よ。それにスペシャルゲストもお呼びするわ。」


スペシャルゲスト…まさか、テラー・パンチラインの事か!本を書いたほどの著名な人物なら会ってみたくもないかも。


「それで、他にどこか行きたいところはあるかしら?」


 土中さんは先輩にことごとく突き返されて思うところはなくなったらしい。かく言う私も行きたいところなんてないのだが、このままだと遠征はテラパンと神社お寺巡りになりかねない。


 見ず知らずの人とさして興味のない場所に行かなければならない。さすがの私でもコミュニケーション障害を起こしそうだ。それならせめて遊びというか、常に会話をしなくても良い状況になれる所に行くべきではないだろうか。


「いい、みんな忘れているかもしれないのだけれど、これは遊びではなく遠征よ。愛好会活動は遊びではないの、私たちは真理の探究者。いわば冒険者、いわば旅人、その旅の終わりに私たちの求める真実が宝が待っていることを忘れてはならない。

 私たちは聖者、従って海だとかキャンポウだとか、露骨な遊びは認められません。あくまでも露骨な場合、だけれども。いわばこの世界は神の遊戯、人と神との戯れが織りなすストーリーなのだから。」


遊びではないだとか戯れだとか、いつも通り訳の分からないことを言う先輩だが、しかし露骨な遊びは否定されてしまった。となると遊びよりも勉強を優先していた私には選択肢が浮かばなかった。


「んん、どうやら今年の遠征は図らずとも私の計画通りになりそうね。いいでしょう、それでは各自連休には予定を入れないようにしなさい。解散!」


もちろんこんな展開を迎えることも先輩にとっては計画通りなのだろうが、しかしまあ私よりも落ち込んでいるのは意外なことに土中さんだ。


「そんな…、連休には部活動で好きなところに行くことができるって理由で7割近く入会を決定したのに…。これじゃBBQウェーイも、サーフィンウェーイもできないじゃない…。」


それは私のという言葉をかいているし、土中さんにお祭り願望があったことにも意外と驚いた。以前にもお祭りはよく行くとは言っていたが。


「もう…諦めるしかないんだ…。私たちの連休は帰ってこないんだ。」


先輩の放った電撃で、私たちのなんとも言えない雰囲気は焼き払われた。連休をつぶせされたのは衝撃だが、今この時だけはこの先輩に感謝すらしていた。


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虚夢 @mikamiya

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