第32話

「いつから聞いてたんですか?たぶん部室の外で。」


「そうね、部室の前を通りかかったら琥珀ちゃんの泣いている声が聞こえた。そんなところからかしら。その後の月山君の恥ずかしい告白もばっちり録音しといたから安心して頂戴。」


空気は読める先輩は空気を凍らせるのも得意らしい。というかそれ、ほぼほぼ全部聞いてんじゃねえか。というか別に告白じゃないから。ただ思ってることを素直に伝えただけだから。


「まあとりあえずこの録音データは琥珀ちゃんとも共有するとして、二人とも5月からの連休の予定を聞かせてもらえるかしら。」


それはとりあえずで済まされる問題じゃないし、連休の予定を聞かれる理由も…、まさかこの愛好会連休までも活動するというのか?


「連休の予定なんて聞いてどうするんですか?私もう予定建てちゃってるんですけど、いまさら変更なんてできませんよ。」


当然のごとく私は警備員の仕事で手いっぱいだ。愛好会活動をしている余裕なんてない。しかしまあ警備の仕事中にこれといってやることなんて特にないのだが。


「ええ、ええわかっているわ月山君。あなたの予定が未定であることはね。それじゃ月山君は何の問題もなし。琥珀ちゃんは何日がアルバイトか教えてもらえるかしら。」


「会長ちょうどよかったです。琥珀連休中はオフにしてもらったよ。」


「ふふふっ、ではこれより計画は最終段階へ移行する。各々が抱く希望を言いたまえ。さすればこの私ができる限り願いを叶えて進ぜよう。」


いや状況が全く飲み込めない。計画?各員?いったい何のことだ。そしてその希望とは何のことだ。


「はい!琥珀は海に行きたいです!」


「琥珀ちゃん、今海に行っても寒いだけで一切泳げたりしないのよ。それよりもほら見てこれ、最新パワースポット聖地巡礼ツアー!これに行きましょう。」


「はい!琥珀はキャンプに行きたいです!」


「琥珀ちゃん、今キャンプに行ってもさぶいだけで、インターネット映えとかしないのよ。それよりもほら見てこれ、最新神社お寺with本日のテラー・シュラインの暴露本!これを参考にしましょう。」


「はい、私もう家に帰りたいです!」


「月山君、今家に帰ってもサブウェイを使うだけ、略してサヴいだけで、警備のお仕事と変わらないのよ。それよりほら見て、天丼は三重が基本、暴露本にも書いてある!」


いやなんなんだその暴露本何が書いてあるんだ。というかなぜ急に土中さんは行きたい場所を語りだして、先輩はさむいネタで徹底的に突き返しているのかど突き返してやりたい。


「だ・か・ら、この連休中にどこに遠征に行くかを決めていたのよ。そのくらいあなたも超愛好会参謀なんだからわかっているわよね。」


超愛好会参謀になったことも連休中に遠征に行くこともわかってねえよ。というか参謀なら情報を共有させろ。体のいい役職を使って伝えなかったことを正当化するな。


「そういうわけだから今回はこの寺神社暴露本と、最新パワースポット聖地巡礼ツアー略してパンツァーを参考に遠征先を決定しましょう。」


いやどこをどう略したら最新パワースポット聖地巡礼ツアーが戦車道になるんだよ。それにテラー・シュラインって語り部じゃねえのかよ。


「会長、そんなパンツを引用したって何の意味もないと思います。オリジナリティが必要です。」


「いいこと言うわね琥珀ちゃん。パンツにおける陰陽、まさにテラー・シュラインにふさわしい。」


 引用を陰陽にして悪用するな。それにやっぱり語り部だったのか。おかしい、さっきから突っ込みに回され続けている。この愛好会唯一の常識枠である官能小説家ですらボケに回られると収拾がつかない。


あとそのシュラインさんに相応しいのはパンチラインだ改名しとけ。殴られたらパンチライン、怒られたらシュラインさんね。


「ていうかそれ自由行動でよくないですか?そうすればみんな好きなところに行って調査できるでしょう。」


私がそんなこと言うと、二人の目線が空気読めないと言ってきた。


「月山君、あなた絶対に修学旅行とかイベントの班決め行動決めで発言しない方がいいわ。いい、こういうのは前提条件を疑っても不毛なだけよ、数学と同じで草も生えないの。農業とは違うけどある意味では同じことなのよ。ほんと腐ってるわ。ふふふっ。」


その草の使い道を間違えて捨てていかないでほしい。腐ってても不毛だから臭ないし、いやまだ不毛じゃないけど。


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