第31話
「勝手なことをして本当にすまない。自分の中だけで真実を知れたら上手に対処できると思ったんだ。」
「ほんとだよ、本当に月山君はすまないことをしてくれたよ。それにとてつもなく失礼!何その対処って、そういうところやっぱり変わってない。」
「ごめん、言葉が悪かった。本当にすまない。自分でもどうすればよかったのか深く考えもせずに軽率だった。言い訳にしか聞こえないだろうけれど本心で言わせてほしい。焦っていたんだ。」
「何、その焦ってったって、月山君は何を焦っていたの?」
「私は私のことが知りたかった。その時の記憶が返ってくるわけでもないけど。ただ私のことを知っている人がいて、その人を知らない私はそれだけでその人を傷つける。それに私だけが、この世界で私だけが偽物のような気がしていたんだ。
月山御影っていう誰かをかぶった何か、っていう偽物に。だから先輩や土中さんがきれいに見えた。本物に見えた。自分の知りたい真実を求めて考えている、行動している、努力している。自分の気持ちに嘘をつかない。
そんな2人がうらやましく見えた。そして私もそうなりたい、そうならなければ私はここにいる資格がない。私のことを知っている誰かに会う資格がない。だから焦っていた。はやく本物にならなくちゃって。」
土中さんは黙って話を聞いてくれていた。話が長くなるのは私の、本心を隠す私の悪い癖。
「だから教えてほしい、教えてください私のことを。私を知っている土中さんに、私が私になるために協力してほしい。勝手な行動をしてごめん。どうかよろしくお願いします。そして私が私になれた時、あなたの心を教えてください。」
数秒間の沈黙が、私にとっては数十分、数時間か経ったように思えた。きっと今までの嫌な奴は、こんな風に誰かに対して本心を告げたこと、告白紛いなことをしたことはなかっただろう。どうしてもっと、なぜ素直に心を伝えることがこんなにも苦しいのだろう。
それはきっと、今まで本心を隠してきて傷つけてきた罪の報い。もっと素直に聞いていれば、土中さんを泣かすようなことも、たぶんなかっただろうに。土中さんの声が聞こえ、永遠に続く自己嫌悪の無限ループが止まった。
「……あはっはははあはは!何それ月山君告白?やっぱり変だよ。変わってるし変わったよ。それで結局琥珀はどうしたらいいの?」
こんな言い方をされたのは恥ずかしかったけれど、それ以上にこの子が笑ってくれていて安心する。
「えっとだから、私の記憶を取り戻すために土中さんの知っていることを教えてほしくて、そのうえでその後は…」
「その後はいい。ちゃんと聞いてたよ。それに月山君が焦っちゃうのも、一人で行動しちゃったのも、優しいからなんとなくわかる。」
この子は優しい、優しすぎる。私がどれだけ酷な願いをしているかはわかっているつもりだ。だがこの子はそれを知ってか知らずか、どちらにせよ本心で笑い飛ばしてくれている。どうして私はこんなにも素敵な子を無下にしていたのか全く理解ができなかった。
「どうやら話はついたようね。では失礼するわ。というかしているわ。」
タイミングを見計らって先輩が部室に入ってくる。全く神出鬼没な先輩だが空気は読める先輩だ。
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